間章 母の異変と和解

 これは、僕らが帰る一日前。

 つまり、僕と美優さんのお母さんとが話していた時の話である。


 〜美優視点〜


 私はまた怒られてしまった。

 私は悪い子だ。

 私、三日月 美優は今日もまた自室で落ち込んでいた。


 今日知らない男の人にぶつかってしまって、かつ、男の人が持っていたフルーツ牛乳を割ってしまった。

 さらに怪我までさせてしまっていた。

 お客様に注文されたからって、そんなに走る必要なんてなかったんだ。


 だけど、今日は同年代の人と自然に話すことができた。私は少しの成長を感じることができて、強い罪悪感の中に少しだけ達成感を覚えた。初めてここで働いてて良いな、これはきっとお母さんが私を叱ってくれたおかげだなとも思えた。


 それから私は強い罪悪感でしばらく眠れなかったが、いつの間にか眠りに落ちていたのだった。





 それから次の日。

 その日にお母さんに対して違和感を覚えた。と言うより、絶対おかしかった。

 支度をし、いつも通り仕事を始めようとする。そこでお母さんに会うと、


「今日休日は好きにしてて良いからね」


 なんて言われたのである。

 なに? 何が起こっているの? 急にそんなことを言われるとこっちもびっくりする。


 それだけ言うと、お母さんは忙しそうに走り去ってしまった。

 私は訳のわからないまま部屋に戻って、急に仕事をしなくて良いと言われた要因を考える。


『まさか、私捨てられる!?』


 数分思考の末、これが私の出した結論だった。

 

『嫌だ、私、捨てられたくない。あんだけガミガミ怒ってくるお母さんだけど、私にとって唯一の親で、大切な家族なんだ』


 そう考えた私は


『よし、お母さんと話そう』


 そう決心し、お母さんを探しに行く。すると、ロビーの近くにある庭にお母さんと、あとは知らない女の人がいるのを発見する。

 遠目から見るに、女の人が私のお母さんを一方的に怒っているような感じだった。

 

『クレーマーかな…。とにかく話が終わるまで待ってよ…』

 

 それから待つこと数分後、そのクレーマーと思しき女の人はロビーの出口の方に向かって歩いていくのが見えた。

 それから男性と合流し、外へと出ていくのを遠目で見届けてから、私はお母さんの元へ行く。


「お母さん!」


「美優…」


 私はそのお母さんの顔を見て、びっくりしすぎて倒れそうになる。そう、お母さんは泣いていたのである。


「どうしたの!? お母さん!」


 私は泣いているお母さんの元へ駆け足で向かう。

 すると、


「美優!!」


 え? 何事!?

 私は突然のことすぎて頭が真っ白になった。お母さんに抱きつかれたのである。


「お母さん、急にどうしたの!?」


 そう言うと、離れて少し距離を取り、


「今まで本当にごめんなさい…」


 と、頭を下げてきた。


「え?」


「今までたくさん苦しめてきてごめんなさい……」


 私としてはまさかすぎる発言に私も驚きを声に出るギリギリなところで踏みとどまる。

 本当に何があったんだろう?

 お母さんは続ける。


「私のことを許してくれなんてそんな甘いことは言わない、もちろん、これからはこのお店の

後継ぎがどうとかは私は何にも言わないわ、それに…」


「いやいや、本当に急にどうしたの? お母さん」


 私は思わず口を挟んでしまう。


「いろいろあってね…。昨日、私が怒った後、部屋で泣いてたじゃない? それを聞いて思ったの。『美優はこの仕事にこんなに苦しんでたんだ。そもそも自分もそうだったのになんで気づいてあげられなかったんだろう。そんなわかりやすいことを見抜けなかった私は親失格だな』って」


「そんなことない!」


 私はお母さんの考えを否定するように言う。

 だって、私、昨日、お母さんに感謝したばっかりだったもん…。

 これにはお母さんも涙が潤む目を大きく開いていた。


「そんなことないよ。確かに私はこの仕事は嫌いだった。人と話すことが苦手な私にはきつすぎた。お客様にもたくさん怒られた。お前の従業員としての態度はなんなんだ!とか、お前のせいで楽しい旅行気分が台無しだ!とか、いろいろ言われたよ?」


「まぁ…」


 お母さんは声を漏らす。

 私は気にせず続ける。


「ここの従業員さんにも、美優ちゃんのせいでこっちにも飛び火が来たよ…。とか、美優ちゃんがいなければお店の評価とかももうちょっとマシになるんだろうな…。とか、陰口で言われてたよ? でもね、お母さん。私はお母さんがいたから今まで毎日続けられたんだよ?」


「え…?」


 お母さんは『そんな訳ないでしょ?』とでも言いたいような顔をしている。


「お母さんが諦めずにこうやって指導してくれたおかげで私は頑張れたんだよ? いつもいつも失敗ばっかり、でもめげずに叱ってくれる。最初は怖くて泣いちゃうけど、最後には私に『こんなダメダメな私でも見てくれてる人がいる。明日こそは褒められるように頑張らなきゃ』と思わせてくれたか! 昨日の鳴釜くんとの会話を聞いてたならわかるとは思うけど、そのおかげで同年代の人とはなんとか自然に話せるようになったんだよ…? これはお母さんが叱ってくれたお陰なんだよ…?」


 お客さんと上手にコミュニケーションが取ることもできず、地獄のような日々に昨日、とうとう少しした変化が生まれた。


「美優…」


 お母さんは目の前で鼻を啜りながら涙を流している。


「だからね、お母さんはお母さんにしかできないことを私にしてくれたんだよ…。だから、私の親失格だなんて言わないで…。私の親はお母さんだけだよ…」


「美優!」


 お母さんはまた抱きついてきて、今度は子供のように大泣きし始めた。

 これからはここの仕事はやめるけど、

 それから私とお母さんは数分、抱き合ったままだった。


 それから私はせっかく少しの成長を感じることができたけど、やっぱりしんどい気持ちの方が勝ってしまい、三日月旅館をやめることにしたのだった。


 〜後書き〜


 どうも、こんばんは! ともともです!

 これで旅館編(プロローグ?)は終わり、これからは学校でのお話となります。

 正直、この話少し矛盾が生まれてそうで怖いです笑

 ここまでの長い(プロローグ?)に付き合っていただいた皆様に感謝を。本当にご愛読いただきありがとうございます!

 少しでもこの先が気になった方は、応援、作品へのフォロー、コメント、お星様評価などをよろしくお願い致します!

 これからのこの小説をよろしくお願い致します!

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