後編・最終話「クリスマスのキセキ」③

「クリスマスのキセキ」登場人物


NO.5 アルフレッド=ベイカー 15歳

イギリスの病院の屋上で一人でいた所を、クリス達と出会う。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


クリスは、ムスッとしながらアルフレッドに話しかけた。

「で? アルフレッド。なんでお前は、そんなに死にてえんだよ?」

アルフレッドの顔が見る見る青ざめていく、アルフレッドは小刻みに震える身体を両腕で抱きしめながら答えた。


「俺、俺っ! 実は難病なんだ!! ドナーも見つからないし…

医者にも、もう、余命一年って言われてる! だから、どうせ死ぬなら飛び降りて死んじまおうって、思って…!!」

アルフレッドは涙を流している。クリスは眉をしかめ、力なく溜め息をもらした。


「いつもの俺なら、馬鹿野郎、命を粗末にするんじゃねぇって…怒鳴りつけてるとこだが、お前の場合は…」


クリスはそこまで言うと、言葉に詰まってしまった。ローズも思わず瞳に涙をためた。

そして、クリスを見上げながら切なそうに言った。


「ねえ…お兄ちゃん。私達がここへ来たのは、無駄だったのかしら?

クリスお兄ちゃん、ねえ、こんな時、おじい様ならどうするのかしら? 私に教えてよ…」

ローズがクリスに助けを求めてきた。冬の冷たい風が、クリス達の周りを吹き抜けて行く。


しばらくして、クリスは上着のポケットから小箱を取り出した。

ふたを開けると、赤と緑のしまもようの入った宝玉。奇跡の玉が姿を現した。

そう、祖父のサンタクロースと後継者の孫のクリス・クロースしか、

あつかえない物では叶えられない願いを叶えることの出来る魔法の宝玉だ。


「あっ、それ奇跡の玉ね?」と、ローズの瞳が輝く、

クリスは奇跡の玉をじっと、見つめた。

「アルフレッド! 俺が、お前の病気を治してやるよ!」

クリスは、頭で考えるより先に口が動いていた。サンタクロース。



祖父に来ることなら重い病人や大きすぎる願いごとは、

叶えるなときつく言われていたのだが、目の前で今、消えようとしている一つの尊い命を心優しいクリスは放っておけなかったのだ。



驚いているアルフレッドの目の前で、クリスは奇跡の玉に念じた。

奇跡の玉から発せられた暖かな光が、アルフレッドの身体を包んでいく、

アルフレッドは、体内の血液が変わっていくのを感じていた。その時、


「うっ、うぐっ!」クリスが胸を押さえ身体がガクリと、崩れた。

「クリスお兄ちゃん!? 大丈夫?」ローズが気遣いクリスの身体を支える、



クリスは、にこっと微笑み「さあ、アルフレッド。これでお前の病気も

治ったはずだぞ!」と言うと、アルフレッドは喜び。

「そうか! 俺もそんな気がしてたんだ…! お前の魔法ってすげえな!

そうだ、この病院には俺の他にも重い病気で助からない奴がたくさんいるんだ!

そんな凄い魔法を使えるんだったら、そいつらも救ってやってくれよ!!」



と、期待を込めた瞳でクリスを見つめると、「おうっ! 任せとけ!」と、

強くクリスはうなずき病院の屋上にソリを止め、奇跡の玉にもう一度念じ始めた。

しかし、妹のローズは兄、クリスの異変にいち早く気がついていた。

クリスの顔色が徐々に悪くなっていくのを、奇跡の玉は再度輝き始め、

一瞬にしてもう、余命いくばくも無い人達の病気を治し、命を救っていった。



その時、奇跡の玉は暖かな光から、まるで血のような不気味な真っ赤な光を放ち始め、クリスから、金色の光を吸い取り始めた。それはなんと、クリスの生命いのちだった。


クリスは、そのままドサリと倒れた。

「クリスお兄ちゃん!!」

「クリス!!」

ローズと、アルフレッドは血相を変えて、クリスを助け起こした。

クリスは顔を真っ青にして、ハアハアと息も荒い。


「だ、大丈夫か!? クリス、もしかして俺のせいなんじゃ…」と、

アルフレッドは真っ青になって、おろおろしている。

ローズは冷や汗を流し、緊急用のベルを鳴らした。


ベルが辺りに鳴り響く。

それは遥か、フランスで仕事をしていたサンタクロースの耳に聞こえてきた。

嫌な予感がしたサンタクロースは、急いでイギリスにソリを飛ばした。


どんどんクリスの肌が冷たくなっていく、ローズは唇をきゅっと噛み締め、

アルフレッドは「俺のせいで!俺のせいで!!」と、酷くあわてて泣きじゃくっている。



その時、シャンシャンと鈴の音を鳴らして、空を飛ぶトナカイの引くソリが夜空から降りてきた、クリス達の祖父サンタクロースだった。


これまで気丈にしていたローズが、泣きじゃくりながらサンタクロースの腕の中に飛び込む。

「おじい様っっ! お兄ちゃんが! クリスお兄ちゃんが大変なの!!

このままじゃ死んじゃう!! お願い、おじい様助けて!!!」と言うと、

サンタクロースは黙って、ローズの頭を大きな手で撫でると、クリスの元へ静かに近づいていき腰を落とした。


サンタクロースはクリスを見た。クリスは今にも死にそうだ。サンタクロースはクリスを見つめながら話しかけた。


「奇跡の玉は未熟な者にとっては、もろはの剣…かつてのわしも、そうじゃった。

小さな奇跡とは違い、大きな奇跡は、ただでは起こせぬのじゃよ…

大きな奇跡にはそれ、相応の代償が必要なのじゃ。

じゃから、わしがあれほど、言ったにもかかわらず

お前という奴は、本当にお前はわしの若い頃に良く似ている

まあ、それがクリス。お前と言う孫なのかもしれんがな」と、



サンタクロースは、溜め息を一つ吐くと優しく微笑み両手をかざすと、

クリスの身体を金色の光がおおった。

見る見る、クリスの顔色が良くなっていき顔に精気が戻った。

ピクッと、クリスの指が動きクリスはゆっくりと瞳を開いた。



「あれっ? 俺、生きてる…!」と、クリスは驚いている。

サンタクロースは眉を吊り上げると、軽くクリスの頭をコツンと小突き、

「この馬鹿者! 心配をかけおって!!」と、クリスを叱ると、

クリスはサンタクロースに手を合わし「ごめんな? じい様」と、すまなそうに謝った。



クリスと、ローズ、サンタクロースはアルフレッドに別れを言うと、

アルフレッドは「色々ありがとう! それと俺のせいで無理させちまって、ごめんな?」と涙を浮かべ言うと、クリスはいたずらっぽく笑い



「いいって! いいって!気にすんな。それよりもう、死ぬなんてバカな気は起こすなよ?アルフレッド、お前はこれから、生きられなかった奴のぶんまで生きるんだ!わかったな?」と言うと、アルフレッドは瞳から大粒の涙を流し

「ああ、ありがとう! 俺、一生懸命生きるよ!!」クリスも無理するなよ?」

と言いクリスと、アルフレッドは笑いあいクリスに人間の友達が出来た。



夜空を飛ぶトナカイの引くソリの上で、サンタクロースはクリスに説教をしていた。

「クリスよ。おのれの力量もわからず、それを超えた力を使うとは、お前もまだまだ、修行不足じゃのう。」



クリスは、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら

「へいへい、じい様にはすげえ感謝してるよ! じい様がこなかったら、本当に危なかったからな!」

と言うと、ローズが「そうよ! クリスお兄ちゃん!私、生きた心地が、しなかったわっ!!」と、クリスに泣きながら抱きつく。



クリスはよしよしと、ローズの頭を撫でながら、

「心配かけちまって、すまなかったな…ローズ、もう、いや?たぶん、

こんな無茶はしねぇと思う!!」とにやっと笑うと、ローズが眉を吊り上げ無言でクリスの頬をつねった。



後継者クリスはまだまだ、神に近い精霊、サンタクロースには敵わないようです。

空からは、真っ白な綿雪が降ってきました。

「おっ?ホワイトクリスマスだな。なんか、暖かい物でも食いてえなあ~!」とクリスが白い息を吐きながら笑うと


「それじゃあ、お仕事が終わったら、お野菜たっぷりのシチューにしましょう!

とローズが微笑んだ。

サンタクロースは、可愛い孫達を見守りながら、

「ほっほっほ…それは良いのう。」と、穏やかに笑った。




-終わり-


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

最後までお読み頂いてありがとうございます。

よろしければ、あとがきもどうぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る