コンソーラ町の不可解 1
幽閉と言う名目で離宮に来て一週間。
その間、アドリアーナは離宮内や周辺の山々へは行ったものの、敷地の外へは一歩も出ずに過ごしていた。
というのも、離宮の敷地は、あたり一帯に広がる山々の端っこまでに及ぶようで、離宮から山を出るだけでも馬車で一時間もかかるのである。山の出口から一番近くの町であるコンソーラ町まで馬車で一時間近くかかるので、ちょっと散歩に……と気軽に出向ける距離ではないのだ。
もちろん離宮に馬車は置かれているし、馬もいる。
けれども名目上とはいえ幽閉の身であるアドリアーナが、ここに到着して早々町の中を闊歩していては外聞が悪かろう。国王夫妻や父たちの耳に入ってもとがめられることはないだろうが、一応はしばらく様子見に徹することにした。
とはいえ、住んでいる場所の情報が何もわからないのもどうなのだろうかと、アドリアーナは王家が手配した使用人の中で一番このあたりに詳しそうな執事を捕まえて、このあたりについて学ぶことにした。
かつてボニファツィオ辺境伯が治めていたことからこの地がボニファツィオと呼ばれていることは知っているけれど、それ以外の情報はまるでない。
王家が手配した執事はもともと国王の侍従だった一人で、王家直轄地にも詳しい。
カルメロという名の執事に聞いたところ、ボニファツィオは領地の大半が山に覆われていて、大きな町が一つと、中くらいの町が二つ、あとは小さな村や集落があるだけだそうだ。主な産業は果物栽培で、特に柑橘類の栽培が盛んだという。
現在は王家の直轄地のため当然領主は置かれておらず、それぞれの三つの町に代官を置き、近くの町や集落をそれぞれの町に近い側の代官がまとめて管理しているそうだ。
ここから一番近いコンソーラ町が、領内で一番大きな町で、本来であれば離宮にアドリアーナが来たので代官が挨拶に来るべきだというが、名目上幽閉となっているのでそのままになっているのだろうとカルメロは言った。
コンソーラ町の代官は、ルキーノ子爵が務めているという。
「わたしの方から挨拶に行った方がいいかしら?」
「いえ、幽閉と言う名目ではございますがアドリアーナ様は現在この離宮の主ですし、ブランカ公爵令嬢でもいらっしゃいますから、わざわざ足を運ぶ必要はございません。来ないあちらが悪いのです」
「普通は幽閉された相手に挨拶なんてしないでしょう?」
「そうおっしゃいますが、陛下から内々に事情はご説明されているはずです。アドリアーナ様が離宮から出るだけで騒がれたりしたら大変ですからね」
知っていて来ないのだから放っておけばいいのだとカルメロは言う。
「利に疎い無能な人間の相手をする必要はございませんが、こちらがアドリアーナ様に届いております」
そう言ってカルメロが差し出したのは、ルキーノ子爵以外の、残る二人の代官からの手紙だった。残る二人の代官はともに男爵らしい。二人ともかつて城で働いていた文官で、カルメロもよく知る人物だそうだ。
「えっと、面会依頼?」
「はい。アドリアーナ様にご挨拶したいようです。夕食会でも開けば一度ですみますし、それほど堅苦しくなくてよろしいかと存じます」
「そうね。じゃあ、夕食会を開きましょう。日時はどうしようかしら?」
「双方の準備を考えると、三日後以降がよろしいかと」
「じゃあ、余裕を見て四日後にしましょう」
「かしこまりました。お二人へのお返事は私が代筆しておきます」
「ありがとう」
カルメロは実によく気がつく聡明な執事だ。国王も重用していたに違いない。
(すごい人を貸し出してくれたのね。陛下にはお礼を書いた方がいいかしら?)
ヴァルフレードの――ひいては王家のせいで離宮に追いやられたのは間違いないが、かなり心を砕いてくれているのも本当だ。うん、国王へのお礼は必要だろう。
アドリアーナはライティングデスクに向かうと、透かし模様でブランカ公爵家の紋章が入った薄ピンク色の紙を取り出すと、国王宛のお礼状をしたためた。デリアに言って手紙を届けてもらうように使用人に言づけてもらうと、窓から見える山に視線を落とす。
(天気がいいし、散歩にでも行ってこようかしら)
このあととくに用事を思いつかなかったアドリアーナは、夕食までの間、のんびり近くを散策することにした。
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