06 ここは地獄

 観察力に優れたタネダをうしなった分、俺たちの負担は増えた。

 罠で命を落としたタネダだが、それでも彼ほど罠や敵の気配に敏感な者はいなかった。だからこそ、彼が斥候役であったし、彼に与えられた装備も罠の探知に活用できるものが多かったのだ。


 でも、もうタネダはいない。

 ハザマのもつ「魔法の杖」で周囲の警戒はできる。

 しかし、杖は使うたびに術者の体力を吸い取るようだった。

 ハザマは頻繁に肩で息をするようになった。


 タネダは戦闘中は俺とカナコをバックアップしたり、敵が後ろに抜けないようにという役目も果たしていた。

 そのような彼が死んでしまった。

 魔法の杖で敵を撃ってくれていたハザマも周辺警戒がやっとで戦闘はほぼできない。ハザマの後衛からの魔法の一撃がなくなると戦いは長引いていき、それが俺たち全員の体力と精神力を削り取っていった。


 あるとき、敵が一体後ろに抜けた。

 マキとハザマは俺たちほど硬い防具を支給されていなかったし、身体能力も優れていない。

 眼の前の怪物の頭を叩き潰し、後ろを振り返ったときには怪物がハザマの首に鋭いナイフの一撃を与えるところだった。

 大型のナイフがハザマの首輪を破壊し、コードを切断し、そして、ハザマの首に大きな切り目をいれた。 


 ハザマはそれでも力を振り絞って怪物を撃ち、倒れ込んだ。

 杖から出た光が怪物を貫き、肉片に変えた。

 首輪が壊れたにも関わらず、ハザマの首がはじけとぶことはなかった。

 ハザマは目の前の肉片から目を背けながら、嘔吐した。

 首の傷から大量の血と吐瀉物、ヒューヒューという変な音を出しながら、ハザマが俺たちに言う。


 「ひと、ひと、ひと、おれはひとを……地獄だ、ココハジゴ……」

 ハザマが口を閉じると、ヒューヒューという音もやんだ。それでも、ごぼりと胃の内容物が首の傷から漏れ出した。

 彼はもう自力で目を閉じることもできなくなっていた。

 俺たちにできることは彼の目を閉じてやることぐらいだった。


 ◆◆◆


 たどり着いたセーフゾーンで、下卑た笑い声が聞こえた。

 どこからともなく茶運び人形があらわれると、俺たちにゴールが近いことを告げた。


 「君たちを監視し、嘲笑っていた管理人たちを殺して脱出するんだ!」

 管理人とやらが俺たちを監視し、嘲笑っていたかどうかは知らない。

 ただ、少なくともこの人形の裏にいるお前らが俺たちを監視し、嘲笑っていただろう。

 カナコが人形を蹴り飛ばした。

 俺はからからと転がる人形を槌で叩き潰したが、気は晴れなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る