05 漫画

 目ざといタネダと重装防具を与えられた俺、身体能力の高いカナコが前衛を固める。

 後ろをいくマキとハザマは与えられた「魔法の杖」を構えて、敵襲や罠に備える。

 数日とはいえ、死線をともにくぐり抜けるうちに、俺たちの間の絆は強く太くなっていった。


 「僕はさ、ここにくる前、漫画を書いていたんだ」

 タネダが言う。

 「あれ、会社員じゃなかったっけ」

 「ああ、そっちが本業。投稿していてね、佳作だけど一応賞もとったことがあるんだよ」 


 俺たちは打ち解けていくうちにお互いのことを少しずつ話すようになっていった。

 各地に設けられたセーフゾーンには滞在リミットこそあるが、「チェックアウト」の時間までは絶対安全だ。どこからか向けられているであろう下卑た視線以外に俺たちを刺すものはない。

 身体を清潔に保ち、食事をし、装備のチェックをし、睡眠をとっても、時間には余裕があった。

 その時間はお互いに話をするしかなかった。

 そうでもしないと暇で仕方がないし、他愛もない話はすり減った心を癒やしてくれるものだった。


 カナコは大学生、元体操選手。

 すらりとした手足と機敏な動きは、長年の運動経験で培われたものなのだろう。

 マキは就職活動中の女子大生。かわいらしい見た目とは裏腹に俺よりも歳上だった。

 ハザマは外資系の銀行に勤めているエリートだった。

 浪人とは名ばかりのフリーターの俺では話す機会のないような者たちばかりであった。


 「無事、帰ったらさ」

 タネダがペンをもつような素振りをした。

 「これで漫画書くよ」

 「わたし、美人に描いてください!」

 真面目な顔で頼むマキに「マキちゃんはとびきりの美人だからね。頑張るよ」とタネダが返している。

 この二人は、この地獄の中で少しずつお互いを意識するようになっているらしかった。可愛らしいマキとお世辞にもカッコいいとはいえない風貌のタネダだ。帰って二人が付き合うようになったら、美女と野獣という定番の文句で祝福してやろう。

 

 しかし、二人の仲はそれ以上進展することもなく、漫画も描かれることもなかった。

 作者が死んだからだ。


 「マキちゃん、マキちゃん」

 罠を踏み抜いて串刺しになった男は血と涙を流しながら、女の名前を呼んだ。

 女が絶叫する。

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