第17話 甲冑ルーキー


「ん……?」


 コウはベッドの上で目を覚ました。


「……見たことある景色だ」


 体を起こすと、ボイルベア討伐後に運ばれた部屋と同じ部屋にいた。


「ということは……」


「うん。負けたよ。昨日のことだけどね」


 確かに外が明るい。

 今は朝か……。


 窓を見た後、声のした方を見ると、前はライネが座っていた椅子に、アロナと観戦していたユウキが座っていた。


「……誰?」


「ああ、初めましてだったね。僕はユウキ。君が戦ったダリアが所属しているパーティーのリーダーさ」


 ユウキは右手を差し出してきた。


「どうも……痛ッ!」


 コウも握手しようと手を差し出そうとしたが、右手に強烈な痛みが走った。


 コウは焦って右手を見てみると、腕ごと包帯でグルグル巻きにされ、ガッチリと固定されていた。


「す、すまないっ! つい癖で右手を出してしまった……」


 ユウキは急いで謝罪する。


「いや……大丈夫。それよりこの腕は……」


「それは、ダリアの金棒と君の拳がぶつかったときに……」


 なるほど……。

 アテナも叫んでいたが、【形態変化メタモルフォーゼ】をしていない状態で、しかも生身で【破城突きペネトレーション】をしたら、ひしゃげてしまうのか。


『お前もう……ぐっちゃぐちゃだったんだからな!』


 アテナがヒョコッと出てきた。


 コイツとも、周りにバレないようにコミュニケーションできるようにしたいな。

 まともに会話できない。


「左腕は【治癒スキル】で治せたからよかったけど」


 ユウキに言われ、左腕を見ると、ダリアの金棒につけられた傷は感知しており、甲冑がキラリと光っていた。


「まあA級とやり合って死なないだけマシか……」


「そうは言っても、かなりの制限をかけてたんだよね。復帰手前だったからね」


「制限……?」


「パーティー復帰まで、C級以上の依頼禁止。武器の使用制限。【スキル】の使用禁止とかね」


「ん? でもアイツはスキルを……」


「そこまで君が追い詰めたんだよ。誇っていい。まあダリアには少しペナルティを与えるか……」


 唇に人差し指を当てるユウキの姿は、美しいと言わざるを得なかった。


 ……男なのか?


 コウはユウキを凝視した。


 所々女の子のような一面を見せるが、鎧を纏ってるし、剣も携えてる。


 ユウキが腰に提げている剣は、何かのオーラを発していた。


「ん? 剣気になる?」


「いや……なんでもない」


「?」


 まあ男か……多分。


「いやー。まあお見舞いついでに甲冑のこと調べさせてもらったよ」


 そろそろ帰らなければいけないのか、ユウキは椅子から立ち上がった。


「甲冑のこと……何か分かったのか!」


 コウは甲冑の話題に食いついた。


「まあ結論から言うと……」


「――分からなかった」


「……だよなぁ」


 コウは天井を仰ぐ。


「だが1つだけ確かなことがある」


「ん?」


「君は、その甲冑に相応しい人間だよいうこと」


「相応しい? 呪われてるのにか?」


「でも僕には、君のアイデアに甲冑も適応してるように見えた」


「……」


「まあ私の勘だけど」


「勘かよ!」


「フフフッ。まあそんな深く考えないで。僕がそう感じただけだから」


 なんだこのからかわれてる感じは……。


「じゃあそろそろ行くね。あの調子じゃすぐにA級になれると思うよ。頑張ってね」


 ユウキは笑顔でそう言ってくれた。


 やっぱり女じゃないのか?

 それとも美少年なのか?

 聞くのは失礼だよなぁ……。


「ちょっと聞いてるの?」


「あ、ああ聞いてるよっ。でもA級になるのはまだ先かなぁなんて」


「ん? なんで?」


「なんでって、俺一昨日D級に上がったばっかりだし……」


「…………え?」


「いやだから、冒険者登録したのも数日前だし。一昨日ボイルベアを倒してD級に上がったんだ」


「あ…………」


 ユウキは口をポカンと開けている。


「……ん?」


「……ぼ」


「ぼ?」


「僕のパーティーに入らないか!」


「…………え?」




◇ ◇ ◇




 ユウキに熱いパーティー勧誘を受けたコウは、相応しくないと思い断ったのだが……。


「ねぇいいだろう? 僕のパーティーならすぐ成長できるし、その甲冑を外す手がかりも見つけやすくなるよ?」


「いやいいよ。俺ランク低いし。またの機会ということで」


 無理を言って建物を出たが、ずっと追ってくるじゃん。


「そこが良いんだよ。この段階でこの強さ! 是非うちのパーティーに欲しい!」


「えぇ……」


「ちなみにレベルは?」


「……15」


「15!? 伸びしろしかないじゃないか!」


 そこまで褒められると悪い気はしないけど……。

 しばらく1人で色々やりたいんだよなぁ。


「悪い話じゃないと思うんだけどなぁ。早めに決断しないと、これから大変なことになるよ?」


 大変なこと?


「――おい! いたぞー!」


「ん?」


 前方から大量の人が向かってきた。


「――アイツがA級のダリアと良い勝負したっていう甲冑ルーキーだ!」


「ま、まさか……」


「残念だけど、勧誘したいのは僕だけじゃないみたい」


 左腕しか使えないし、剣もないんだぞ。

 逃げ切れるか……?


「まああの数から逃げるのは難しいね。ここは私と手を組んで……ね」


 ユウキはコウの肩に手を回してきた。


「ちょっと待ったー!」


 肩を組んだユウキに向かって、何かが飛んできた。


「おっと!」


 ユウキはコウから離れて飛び退いた。


「コウ大丈夫?」


「アロナか!」


 ユウキに向かって飛び蹴りをして登場したのは、アロナだった。


「やっぱりこうなってたね」


「まさか助けに?」


「当たり前でしょ! ほら早く逃げるよ!」


 アロナはコウの左腕を掴んで走り始めた。


「お、おう!」


 アロナに引かれて走り出したコウは、チラッとユウキを見た。


「僕はのんびり行くから、頑張って逃げてね」


 ユウキはコウたちを追いかけることなく、手を小さく振って見送った。




◇ ◇ ◇




「ハァ、ハァ、そんなに俺を勧誘したいのか?」


 2人は目立たないように路地裏を走っていた。


「冒険者登録をして数日でボイルベアを倒した。A級冒険者に傷を負わせた。不思議な甲冑を装備している。これだけ条件が揃えば、みんな勧誘したがるでしょっ」


 アロナは、息を切らすことなくそう答えた。


「でもそれよりも、勧誘される理由があるの」


「まだあるのかっ?」


「【呪いの甲冑】の【形態変化メタモルフォーゼ】の変身……」


「まだ2種類しかないが……」


「――上手く使えば、職業変更ジョブチェンジができるかもしれない」

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