第2話 進化


「へ〜。スキルとは特別な能力のことか」


「そうそう。習得できるスキルもあれば、極わずかな人しか持っていないスキルもあるよ〜」


 まだ俺にはスキルはないか。


「あとレベルって何だ? 俺はレベル2らしいけど。俺自身の強さ?」


「まあそうなるね。主にモンスターを倒したりすると、そのモンスターのエネルギーが吸収されてレベルが上がるんだ」


「強さって数値化できるんだな」


「まあ長年にわたり、便利になったんだよきっと」


 こういう話は、なぜ俺たちが生まれたのかみたいな概念的話になるから考えないようにするか。


「ところでアロナのレベルとスキルは?」


「私? まだ信用し切れてないから、全部は見せられないけど」


 そう言うと、コウの前に再び文字が浮かび上がった。


【名前】アロナ

【性別】女

【職業】冒険者:シーフ

【装備】

 ・鉄の短剣

 ・???

【レベル】19

【スキル】

・シーフの心得

・隠密:レベル2

・カエル飛び:レベル1

・???


「おおっ」


「こんな感じで、ステータスの一部を隠して相手に開示することもできるんだ」


「……ってシーフじゃないか! 盗賊の分類だろ!」


 コウは先程アロナが言った盗賊じゃないという言葉が嘘だったと思い込んだ。


「違う違う! 私は冒険者! 冒険者を職業にすると、どの適性があるか分かるの。私の場合シーフだから、【隠密】のように、立ち回るようなスキルを習得しやすかったりするの」


 アロナは手を振って誤解を解いた。


「だったらいいが……。ところで、スキルにもレベルがあるのか?」


「うん。レベルが上がればスキルの効果も上がるんだ。上限は10までだけどね。あっ、私たちのレベルは無制限だからね。いくらでも強くなれるよ〜」


 アロナは力こぶを作るポーズをした。


 だんだんと分かってきたぞ。

 まあ要するに俺は弱すぎるということだ。

 正直レベル2のまま町に着くのはなぁ。


「スキルのレベルもモンスターを倒せば上がるのか?」


「モンスターを倒すというか、スキルを使いこなすというか、理解するというか……うーんちょっと難しいんだよな〜」


 まあレベルというより熟練度と考えた方がいいかもな。


「あっ、もしかして……」


【呪いの甲冑(不完全)】

【詳細】

・脱ぐことができない呪いの甲冑。

・咀嚼や排泄を不要にすることができる。


【呪いの甲冑(完全体)】

『必要レベル』:2/4

『必要素材』

・スライムの魔石:4/15個

・バルーンスライムの魔石:0/1個

『必要スキル』

・なし


 予想通りだ! この甲冑もスキルのように進化するんだ。


「なあアロナ。街に行く前に、スライム狩りをしたいんだが」


「スライムならそこら辺にいると思うけど。なんで?」


「ちょっとやってみたいことがあってな」


 これでレベルも上がるし、甲冑も進化するし、これをこなせば堂々と町に入れるだろう。

 でもこの甲冑脱げなくて困ってたのに、進化させていいのか?

 ……まあ後で考えればいいか。

 早く動きやすい体になりたいし。


「ついでにバルーンスライム? も倒したいんだが」


「バルーンスライムかー。私苦手なんだよね〜」


「強いのか?」


「ほぼスライムと一緒なんだけど、赤色で体が大きいの。その分核まで距離があるし、私の短剣じゃ届かないんだよね」


 職業によって苦手な敵もいるのか。


「ソイツもそこら辺にいるのか?」


「道を外れて進めば見つかると思うよ。それに結構目立つだろうし」


「じゃあ倒していくか」


「でもレベル2のスキルなしだと厳しいかもだよ?」


「まあ先にスライム倒してレベル1つでも上げてから戦うよ」


「じゃ、じゃあ私も手伝うよ!」


「ありがとう。アロナがいれば安心だ」


 正直女の子にこういうこと言うのは情けないよなぁ。

 早く強くなんなきゃな。




◇ ◇ ◇




「ハッ! よしこれで10個目だ」


 コウはバルーンスライムを探しながら、スライムを倒していた。


「こっちもあったよー!」


 アロナにはスライムの魔石集めを手伝ってもらっていた。


「助かるよ」


 コウは今倒したスライムの魔石と、アロナから受け取った魔石を吸収する。


【呪いの甲冑(完全体)】

『必要レベル』:3/4

『必要素材』

・スライムの魔石:13/15個

・バルーンスライムの魔石:0/1個

『必要スキル』

・なし


 あと2個か。

 レベルも上がってるし順調だ。


「よし。後は任せてくれ。アロナはバルーンスライムを探してもらえるか?」


「まっかせて〜」


 アロナは元気の良い返事をすると、グッと屈んだ。


「スキル!【カエル飛び】!」


 アロナはジャンプしたかと思うと、体がとんでもない高さまで跳ね上がった。

 上空からバルーンスライムを探す魂胆だ。


「凄っ!」


 これがスキルか。

 俺も早く身につけたいが、まずは甲冑からだな。


――ガササッ


 そう思っていると、草むらから2体のスライムが現れた。


「そもそもスキルを身につける前に、基礎がなってないよな」


 コウは剣を構える。


 こっそりアロナの剣さばきを見させてもらった。

 俺とは違って短剣だが、根本的な使い方は間違っていないはずだ。


 コウは剣を振り上げる。


 腕だけで斬るのはダメだ。

 体感を意識して、全身を使って斬るイメージだ。


「よし」


 今度は剣は震えていない。


 その時、1体のスライムが飛びかかってきた。


「フンッ!」


 ズバッと音が鳴る。

 見事スライムは、核ごと真っ二つになっていた。

 スライムは空中で消滅し、魔石だけがポトッとコウの手のひらに落ちてくる。


「やっとまともに振れるようになったな」


 もう1体のスライムも間髪入れずに飛びかかってきた。

 コウは落ち着いて1歩前に踏み込みと、片手で剣を振り、横方向に斬った。

 先程のスライムと同様、空中で真っ二つになって消滅した。


「ラッキー。コイツも落としてくれたぜ」


 運良くその2体のスライムから魔石が手に入った。

 これで条件を1つクリアした。


「後はバルーンスライムか……」


「おーい!」


 ちょうどアロナが跳ねながら戻ってきた。


「いたかー?」


「いたよーっと」


 勢い良くコウの目の前に着地した。


「案外近くにいたよ。こっちこっち」


 アロナはコウの手を引っ張った。


「何から何までありがとう」


「ヘヘッ」


 アロナはニコッと笑った。


 初めて会った子がアロナで本当に良かった。




◇ ◇ ◇




「デ、デケェ」


 アロナに案内された場所には、スライムの何倍もの大きさの、バルーンスライムがいた。


「よし。じゃあ早速――」


「待ってくれアロナ。俺1人で戦ってみていいか?」


 アロナの肩に手を置き、1人で戦いたいと主張した。


「……うん分かった! いざとなったら助けるからね!」


「ああ。そのときは頼む」


「行くぞ!」


 コウは剣を抜き、バルーンスライムに向かって走り出した。


「ピ?」


 バルーンスライムもこちらに気づいた。


 先手必勝だ。


 バルーンスライムは動きが遅いのか、その場から全く動かなかった。

 コウはためらうことなく、核を狙って剣で斬りかかった。


――バヒュンッ


「は?」


 突然、バルーンスライムの姿が、コウの視界から消えた。


 いない。

 触れる寸前で消えた!?


「コウ! 上!」


 アロナの方を見ると、上空を指差し叫んでいた。


「上……?」


 コウはバッと上を見ると、バルーンスライムが上空を飛んでいた。

 アロナの【カエル飛び】と同じ程の高さだ。


「飛べるのかよっ!」


 こちらに向かって落ちてくるバルーンスライムを間一髪飛び避けた。


 落ちてきたバルーンスライムは着地すると、体がベターンと広がった。

 勢いもあって、土が飛び散った。


 スライムが膨らんで大きく見えるからバルーンスライムというだけでなく、高く舞うという能力があるからバルーンスライムなのか。

 しかもその能力を使ったカウンター攻撃かよ。


「さてどうするか……」


 アイツが飛び跳ねる前に攻撃するのは、まだ動きが鈍い俺では無理だ。

 だったら……。


 コウは、周囲を見て何かを確認すると、スッと剣を振り上げた。


「ッ……!」


 バルーンスライムは攻撃が来ると予測して、高く飛び上がった。


 よしっ。


 コウは、腰を掛けるのにちょうどいい大きさの岩の手前に移動した。


 バルーンスライムは、フワフワと上空を飛びながら、狙いを定める。


「こっちだ! 来いっ!」


 コウの言葉に応えるように、急落下を始めた。


「……」


 しかしコウは剣を構えるだけで、その場でジッとしている。


「何やってるのコウ! 避けなきゃ!」


 またもやアロナが声を上げた。


「……ッ! ここだっ!」


 バルーンスライムがコウに激突する寸前、後ろにある岩の上に飛びのいた。

 攻撃が避けられたバルーンスライムの体は、岩の手前に激突する。

 先程同様、体がベターンと広がった。


「今っ!」


 コウはタイミングを見計らって、バルーンスライムの上をジャンプした。

 そして狙いを定めて――。


「ハッ!」


 バルーンスライムの体に剣を突き刺した。

 今のコウの力じゃ核まで剣が届かないが、着地時に体が薄く引き伸ばされたバルーンスライムの体は、いともたやすく剣が貫き核を壊した。


 一瞬体がビクッとしたが、バルーンスライムの体はスライムと同じように、蒸発するよう消滅していった。


「ふぅ……」


 コウは安心ように、空を見上げた。


「凄いよコウ~!」


 戦いを見守っていたアロナが駆け寄ってきた。


「フッ、でもアロナが助言してくれなかったら危なかったよ。ありがとう」


 こんなに嬉しそうに褒めてくれるとは思わず、コウは照れてしまう。


「もうっ。感謝はいいから、ほら見てっ!」


 アロナは足元に落ちている何かを拾い上げた。


「これは……」


「バルーンスライムの魔石だよ! まさか初めての戦いで出てくるなんて!」


 テンションが上がっているアロナから、赤く、丸みを帯びた魔石を受け取る。


 ここまで運が良いとはな。


「よし! "食え"!」


 条件が揃ったことで、テンションが上がるコウは、意気揚々と甲冑に吸収するように命じた。

 よし来たと言わんばかりに、手のひらにあるバルーンスライムの魔石を取り込んでいく。


「な、何が起こるの!?」


「まあ見てろって」


【呪いの甲冑(完全体)】

『必要レベル』:5/4

『必要素材』

・スライムの魔石:15/15個

・バルーンスライムの魔石:1/1個

『必要スキル』

・なし


 呪いの甲冑を念じ、条件がクリアされているか確認する。


 ちゃんと条件はクリアしているな。

 しかもレベルが5になってる!


【呪いの甲冑(不完全)を呪いの甲冑(完全体)に進化させますか?】


 進化をするかどうかの確認の文字が現れた。


 それはもちろん――。


 突然、コウの体が光りだした。


【呪いの甲冑(不完全)が呪いの甲冑(完全体)に進化しました】

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