第7話

「うーん なかなか帰らないわね」


 イケメンな、料理教室の先生とかマダムのイイ標的になっていて、終了時間をすぎても3人が先生を取り囲んでいる。


「ねーぇ 先生」


 小ぶとりな、北谷さんが体をくねらせてケンジ先生に、すり寄っている。


「なんですか ??」


 北谷おばさんの、おでこを手で押すケンジ先生。


「今度の休みに二人だけで出かけませんか ??」


 ケンジ先生の、腕をつかみながら誘う北谷。


「えーっと」


 目が泳ぐケンジ先生。


「お金は ぜーんぶ ワタクシが払いますので」


 気前の良い北谷。


「ずるーい

ぬけがけなんてしないでよぉ」


 他の二人も、なんとか絡もうと必死にアピールする。


「まぁまぁ 落ち着いて」


 苦笑いするケンジ先生。


「私が先に見つけたのよ

みんなは 手を出さないで

ねー先生」


 ヒョロッとした、おばさんが自分の方を優先するように言いだす。


「はぁ」


 料理教室の、生徒に強く言って機嫌をそこねたくないケンジ先生。


「仕方ないわね

あの特殊な方法を使うとするかな」


 このままじゃあ、ラチが開かないので一芝居うつことにするよ。


ヴィーヴィー


 北谷の、スマートフォンを鳴らす。


「あら どうしたの ??」


 名前の欄に、主人の名前を見てから電話に出る北谷。


『今 交通事故にあって大変なんだよ』


 単刀直入に、話をはじめる北谷の主人らしき声の人。


「えーーーーッ

どうしたの ??」


 目を、丸くする北谷。


『信号を待ってるのにつっこみこれから病院に行くから』


 すごく、切羽つまった状況だね。


「うわぁー

どこの病院よ ??」


 スマートフォンを持ったまま、落ち着きなく周りをギョロギョロする北谷。


『病院に着いてみないとわからない』


 救急車のサイレンが、かすかに聞こえて来る。


「うわ どうしよう」


 室内を、ウロウロする北谷。


『とりあえず 入院になるかも知れないから家で着替えとかバッグに詰めておいてくれ』


 細かく、指示を出す 男。


「うん わかったわ

すぐ帰るから」


 少々、涙声になる北谷。


『それじゃあ』


 そう言うと、電話を切る 男。


「うん」


 現実を、受け止めきれずスマートフォンを見つめる北谷。


「あぁーどうしよう先生」


 そう言いながら、指先が震えている。


「とりあえず

一旦家に帰った方がイイんじゃないでしょうか」


 帰宅を、うながす先生。


「そうするわ」


 頭を、2回ほど下げる北谷。


「私 家まで送って行きますわ」


 ヒョロッとした女が、車で送ると言う。


「すいません ご迷惑をおかけしまして」


 ヒョロッとした女の、手を握る北谷。

 そそくさと、教室から出て行く。


「わたしも 帰ろうかな

先生また今度」


 ズングリムックリした女も、あとを追うように出て行く。


「はい お待ちしておりますー」


 ペコペコするケンジ先生。


「はーい失礼しまーす !!」


「ふぅ」


 ため息を、吐くケンジ先生。


「やっと 二人きりになりましたね」


 つい、顔がニヤけてしまうわ。


「うーん でも気分的にそういう状況じゃあなくなっていますよね」


 イチャつく空気じゃあないと言う先生。


「なにがですか ??」


 吹き出しそうになるのを、押さえるのに必死だよ。


「北谷さんのご主人が 事故にあわれたって今 話していたでしょう ??」


 やっぱり、真に受けているのね。


「あーそれ

ニセの電話ですよ」

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