第9話 ハッピーエンド?

 俺が6年も追いかけた事件はやっと解決するに至ったな。これで、やっと落ち着いて寝れる。でも、大切な人だとしても、友達を殺した人をここまで憎むんだろうか。2人も殺したんだもんな。


 でも、それは、しばらくして分かった。河合が、刑務所から小説を書き、出版社に送り、出版されたからだ。河合が、桜井をどれだけ愛していたかということ、その楽しい日々が綴られていた。そして、その愛する人を奪われた悲しみ、怒りが書かれていた。


「河合さん、今日は面会に来ました。」

「ああ、元刑事さんね。お久しぶり。」

「あなたが書いた本を読みました。愛した人の復讐だったんですね。」

「そうよ。読んでくれたのね。聞いたところだと、結構、評判になって、SNSでも、気持ちわかるってかなりの同情票を集めているらしいじゃない。私と同じ考えの人はいっぱいいるってことね。」

「それは間違いです。最近、SNSでは、断片的な情報で、短絡的に考える人も増えているだけです。そんな考えで復讐とかしていれば、今回のように誤解で人を殺してしまったり、不必要な戦争とかの原因になるんですよ。」

「昔から、親の仇という言葉もあるじゃない。仇を取るのが合法の時代もあったんだから、この時代でも合法化すべきなのよ。あなただって、お子さんがいるかわからないけど、お子さんが殺されたら恨むでしょ。」

「もちろん、恨む気持ちはありますよ。でも、最近は、短気で、人の命とか軽んじる風潮が蔓延しているんです。正当防衛だとか、相手が先に攻めてきたからといって相手を殺せば、いつまでも仇の応酬は続くから、仇は禁止されたんですよ。どうして、あなたのように法律で生きてきた人が、わからないんですか。しかも、関係のない人まで殺しているじゃないですか。」

「日常と狂気とは表裏一体なの。先日、ホストの女性客が、ホストにお金をむしり取られたって恨んで殺したらしいじゃないの。日頃、普通に暮らしている人だって、そんなもんなのよ。あなた、結構、年とっているようだけど、人のことまだまだ知らないのね。」

「このままじゃ、反省の色がないとなって、刑務所から出るのも相当後になるでしょうね。」

「私は、美花のためにすべきことをしたんだから後悔はないわ。じゃあね。」


 ところで、私が刑務所に入ってから、実は、嬉しいことがある。美花が、私に笑顔を向け、ずっと私の側にいてくれているの。


 もちろん、これは幻影なんだとは思う。でも、そんなことはどうでもいい。美花が、いつも私に微笑みかけてくれるのを見るだけで心は豊かになる。


 そう、大学のサークルで恥ずかしそうに笑っていた美花、温泉旅行で雪が見える露天風呂でキスをした美花、お寿司屋で日本酒を飲み明かした美花、どの美花も素敵だった。


 そして、今は、そんな美花がずっと私と一緒にいてくれる。ただ、見守ってくれているだけじゃない。私が話しかけると、共感してくれる。


 私は、こんな日を待っていた。美花に危害を加えた人に復讐できたから、美花も喜んでくれているのね。


 今日、美花は白いワンピース姿だけど、そのワンピースは風にたなびき、美花の清楚さを象徴している。そんな姿をみてると、周りは草原のように感じられる。そう、菜の花や、小さな野の花が咲き始めている。


 刑務所にいるのに、日差しが眩しい。蝶々も夫婦なのかしら、楽しそうに舞っている。


 日に日に、私の目は虚ろになり、1日中、動くこともなくなって、刑期が終わる前に精神病棟に送られることになった。そして、刑務官の間では美花に連れて行かれたと噂された。

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同性愛者でもいいじゃない 一宮 沙耶 @saya_love

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