第10話 対話2



(・・・・)


僕は後ろを振り返って彼の視線の先を追った。


「・・・・お、お父さん」

「こんばんは」



(え・・・)


「やぁ」

「かずきくんの友達の桐崎こうたといいます」

「あぁ、かずきから聞いてるよ、邪魔してごめんね、ゆっくりしていって、なんなら上がってくれてもいいし」

「あ、いえ。大丈夫です。今日はこれで帰りますので」


動揺している僕を間に挟んで2人はなんともないように話をしている。


「そうか、じゃあまた機会があれば遠慮なく寄ってね」

「はい」


お父さんはこうたくんの相槌を確認してからリビングへと入っていった。


(そういえば着替えるって言って出て行ったんだった・・・)


お父さんとリビングで別れてその後すぐにそのまま玄関にダッシュしたのを今思い出した。


「こ、こうたくん、ごめん」

「ん?なんで?いいじゃん別に。初めて見たけど見た目はあんまり似てないね、雰囲気?は似てる気はしたけど」

「僕は・・・多分お母さんよりかもしれない・・」

「そうなんだ・・・・だから可愛い顔してんのか」

「・・・・か、可愛くはないよ」


女顔なのは正直コンプレックスだけど好きな人に言われると嬉しくなる。なんでだろう。それに普通にこういうことをなんの気無しに平気な顔して言ってくるこうたくんか男子校を選んでくれて良かった。


(女の子がこんなこと言われたらすぐに好きになっちゃうんだろうな・・・)


「あ、あのさ、さっき何か言おうとしてた?」


凄い中途半端に終わった会話が一つあった気がするけど何なのだろうか。前も似たようなセリフで、質問された時あったけど、あの時は僕の予想とは外れていた。


「ん~・・・・いいや、あれはごめん、また今度な」

「そ、そっか・・・分かった」

「じゃあそろそろ帰るわ」

「うん・・・・」


本当はもうちょっと一緒に居たい。


別に何か話したいわけじゃないけど、というか僕は話すのが下手くそでリードすることができないからそんなわがまま言ってみたってこうたくんに失礼なだけだ。


「・・・気を付けて・・帰って・・今日は来てくれてありがとう」

「まぁ、俺が勝手にしたことだし気にすんな」

「・・・・・」

「どうかした?」

「え?い、いやなんでもないよ」

「そう?」

「うん・・・・」

「・・・・なぁ、かずきってやっぱり俺のこと苦手だろ?」

「へ?・・・な、なんで?」


色々考えているとまたこうたくんから視線を外して話していたらしい。彼にまた指摘された僕は顔を上げた。


「いや、だって、お前俺のこと見ないじゃん」

「・・・・えっ」

「まぁ、別にいいんだけど」


話の流れじゃなくて僕の行動でこんな会話になってしまった。せっかく二人きりなのに余計に緊張して失礼な態度しか取れない僕は心臓がバクバクしている。


(っていうか周りに人がいても緊張する・・・)


「そ、そんな理由じゃないよ。こうたくんのこと苦手とかじゃない、それは絶対ないから・・・」

「じゃあなに?」


理由がなくても隣にいることができるあの空間は、喋らなくても隣に居ていい理由があるあの学校の教室はやっぱり特別だ。


(・・・無理してでも今日行けば良かったかも)


「・・・き、緊張するから」

「緊張?俺と話す時?」

「・・・・うん」

「なんで?」


(な、なんで?・・・どうしよう、ここまで聞かれるとは・・・・なんて答えれば)


「っ・・・・」

「人見知りだから?・・・にしちゃあ時間経ってるとは思うけど」

「・・・・ごめん、僕・・・話が下手くそだから・・上手く伝えられなくて・・」


これは本音だ。


でもこれ以上は本音を言えない。目が泳いで少し大きいパーカーの袖をぎゅっと握った僕は喉まで出かかった言葉を飲み込んで違う言葉を吐いた。



「・・・こうたくんは、僕みたいなの・・・イライラしない?」

「・・・・・イライラ?」

「うん」

「・・・・」


また質問の選択を誤ってしまったかもしれない。今度はこうたくんが黙って場の空気が少しピンと張りつめた。


「・・・ごめん、違う。変なこと聞いて・・・ごめん」

「・・・・・」

「ま、また月曜日に、」

「なぁ、」

「・・・はい」


リビングにいるお父さんがだんだんと気になってきた。帰るとか言いながらいつまでも玄関で立ち話をしているから、そろそろ心配になってリビングから出てくるんじゃないかって落ち着かない。


「俺、かずきにどう見られてるか分かんないけど、イライラしたり嫌だなって思ってたら、そもそも連絡先なんて渡さないし」

「・・・・・」

「出会って一週間とかじゃないだろ?半年経ってから連絡先聞いたんだぜ?お前にイライラしてたらそんなことしないよ」

「・・・・・こ、こう」


彼の足元を見ていた僕は自分の頭にこうたくんの手が触れたことに気が付いて、パーカーの袖を握っていた手から力が抜けた。


「大丈夫だよ、何があってもお前のこと嫌いになることはないと思うし」

「・・・・・」

「だから、安心して」

「・・・でも、」

「それに、俺のご機嫌なんて取ろうともしなくていいから。かずきはそのままでいいよ」


手が離れて視線を上に向けると目が合う。こうたくんの優しい声色に胸がいっぱいで泣きそうになった僕にこうたくんは少し笑いながら言葉を続けた。



「まぁ、でも俺のことを見てくれないのは悲しいから、頑張って上向いて」

「・・・・は、はい」

「俺のことかずきの視界にちゃんと入れてよ」

「・・・・・が、頑張ります」

「うん」

「・・・あの」

「ん?」


こうたくんとだけ話したいと思う。話したいと思うから、どうやって会話を続けようか考えた結果こんなにどもる。


他の人となんて話さないし、会話を続けようともしない。



『・・・・ずっと、ずっと隣にいたいです』


好きですの代わりにこんな遠回しな言い方さえできない僕はそれでも何か気持ちを伝えたくて必死だった。



好きな人を目の前にして簡単に揺らぐ自分の決心と、好きな人が居ない空間で一人悪い想像を膨らまして勝手にマイナスになる自分の心の弱さにつくづく嫌気がさす。



「・・・・またメッセージ送ってもいいですか」


嫌だと言われたら僕はどうするのだろう。


「いいよ。好きな時に送ってもらって」

「・・・・・あ、ありがとう」



躊躇なく了解の言葉をくれたこうたくんは、右手をポケットに入れた。



「じゃあ今度こそ本当に帰るわ」

「あ、うん・・・気を付けて」

「おぉ~、また月曜日な」

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