プロローグ3 国王からの褒美

 朝の陽ざしが差すわけでもなく。

 ここは、魔王城で太陽が全く当たらない極夜の土地だ。

 陽ざしが差さないせいか、かなり寝てしまった。


「やっとお目覚めですか、ユニス」


 瓦礫の上に座っていたのは、僧侶ミレイユだった。


「おはようミレイユ」

「おはようございます」

「他の皆は?」

「先に帰還しましたよ、あなたが中々起きないの、痺れを切らして」

「そういうミレイユは、待ってくれていたんだね」


 勇者パーティはせっかちな人が多いから、俺を置いて先に何かをするのは、よくある事だった。

だけど、魔王城に置いて行かれるなんて、俺は人望がないな。


「さ、行きますよ、あ、私戦闘できないので、あなたが先陣切ってくださいね」


 ミレイユが身に着けている、金の刺繍を施された法衣は清潔付与クリーンエンチャントの魔法が施されているのか全く汚れていない。

パラパラと法衣に付いた埃を払うと、ミレイユは出口に向かった。

俺も固くなった体を伸ばしすぐにミレイユの後を追った。


「流石に一日休んだから、体力前回しているわ」

「わかりましたから、もう少しスピードを抑えてください」

「はっはっはー、すまない!」


 俺は、ミレイユをお姫様抱っこしながら、魔王城の麓にある迷いの大森林を駆け抜けていた。

 目の前に現れるモンスター達は、身体強化でブーストを掛け、ひらりと避けていった。


「あの、モンスターとは戦わないのですか?」


 ミレイユは去り行くモンスター達を横目で見ながら話しかけた。


「俺とミレイユしかいないんだ、避けて進む方が早く着くだろ」

「そうですか……」


 ミレイユは何とも切ない表情をしていた。

 冒険時代も良くミレイユとは二人一緒になることはあり、俺は内心ミレイユに対して、恋心を抱いていた。


 ミレイユは、賢者ソーレイからの紹介で、勇者パーティに加入したのも、3年前の事だった。

 俺の一つ下の彼女は、子爵家の令嬢であり、女神様から癒しのギフトを与えられ聖女候補になった。

 その見た目も、女神様を写し取ったような金色な髪に、雪のような白い肌、慈愛に満ちたその優しい瞳。

 出会った頃は、ぶっちゃけ一目ぼれだった。

 きっと彼女は、今回の魔王討伐による功績で聖女になるのだろうな。

 その前に、俺はミレイユに思いを伝えたいと考えている。


「あ、あの、少し疲れたので、前に使った休憩地点で休みませんか?」


 ミレイユの表情は暗くなっていた。

 もしかして俺が起きるまで待っていたから、あまり疲れが取れていなかったのか。


「ああ、そうだね。そうしよう」


 魔王城に向かう間、魔族領のいくつかに、焚火とモンスター除けのアイテムを使った個所がある。

 その効力は最低ひと月続くものだ。

もう魔王を倒し、急ぐ理由はなくなったのだ。

ゆっくりと南のレグレシップ国に帰還すればいいか。

 休憩地点で紅茶を飲むミレイユに、残り少ない携帯食料の干し肉を渡す。


「私、これ苦手です」

「そういうなよ、俺ももう、これしか残ってないんだから」

「ユニスはアイテムボックスがあるでしょう、なんで紅茶の束はあって、サンドイッチとかはないのですか?」


 そんなもん、モンスターの素材ばかりで、食料なんて入れるスペースがないからだ。


「そういうなよ。せめて、モンスターの体が消えなければな~」


 モンスターを倒すと、素材又は、アイテムしかドロップしないのだ。

 その肉は、残ることなく、すぐに消えてゆく。

 それは世界の理だ。


「仮に残ったとしても、モンスターの肉なんて食べたくありませんわ」


 紅茶を啜りながら、ミレイユは空腹を紛らした。


「それもそうだな、あっははははー」


 そして俺とミレイユは、休憩地点を何度か行き来し、ようやく、魔族領と隣接している北のクテリア国にたどり着いた。

 クテリア国は他の国とは違い魔族領からのモンスターの被害が甚大で、他国と比べて貧しい所になっている。

ここで確保できる食料は、麦か、痩せ細った野ウサギぐらいな物だが、無いよりはマシだ。


「しかし、魔族領の近くは本当に誰もいないな」

「当たり前です。この国は、魔族領との砦がないせいで、住もうにも住めないのです」

「他の、東と西の国には砦があって、この北の国だけはないんだろうな」

「あなたは本当に無知ですね」


 ミレイユの説明によると、以前は砦もあったのだが、北の国だけ、何故か、モンスターが押し寄せてくるので、すぐに破壊されてしまう。

そのせいで、砦にかかる費用が尽きてしまい、今は無法地帯になってしまったと。


「でも確か魔族領との境には、冒険者ギルドがあったよね」

「あれは、西よりの所にあるので安全ですよ」


 なるほど、北の国の中間が一番危険なのか。


「というか、あなた何でそんなことも知らないのですか?6年間、賢者ソーレイと冒険していましたよね?」

「ソーレイの奴なんも教えてくれないもん」



 南のレグシップ国の大都市に戻るのに、2週間程かかってしまった。


「長かったな~」


 すぐ目の前には、大都市の堅城鉄壁な砦が聳え立つ。


「そうですね、やっと戻れました、早い所、王城に行きましょうか」


 砦の門番の者が、俺達を見た際にすぐに動き出し、こちらに歩み寄った。


「お疲れ様です。勇者ユニス、そして、僧侶ミレイユ様」


 おいおい、俺には様がないのかよ。


「ええ、戻りました」

「それでは、こちらの馬車にお乗りください。王と、仲間の方がお待ちしております」


 用意された馬車は、かなり装飾を施されており、豪華なものだった。


「大袈裟だよな~、普通の馬車でいいのに」

「それだけの偉業を成し遂げたのですよ、あなたは」


 馬車の隣に座るミレイユは、俺の手の甲に、そっと掌を添えた。


「討伐された魔王は、3人もの勇者を葬ってきました、それをあなた8代目勇者で討ち取ったのです、これを偉業と言わずして何と言うのですか」


 俺の代で魔王を倒すことができた。

 それを早く両親の元へ、妹に伝えたいのだが、まずは王様に帰還の報告をせねば。


「というか、ソーレイ達が先に報告しているなら俺いるか?」

「当たり前です、それにパレードの用意だってされておりますよきっと」

「そうなの?じゃあ外覗いてもいいのかな?」


 馬車にはカーテンがされており、王都の街並みを見られなくしていた。


「ダメです、この馬車にあなたが乗っていることが分かれば大騒ぎになるでしょ」

「そうかなー、皆大喜びすると思うけど」


 馬車が止まる。

 どうやら王城に付いたようだ。

 ドアが開き、そこに待っていたのは、レグレシップ国のシンボルが鎧に刻まれていた騎士団達だった。


「お待ちしておりました、勇者ユニス、お疲れの所申し訳ないが、王の元へ案内いたします」

「別に案内なんて必要ないよ、謁見の間には何度か行ってる」

「そういうわけにはなりません、こういうのは形が重要です」


 なんとまぁ貴族っぽい理由だな。一応俺も貴族っちゃ貴族だけども。


「では、案内をよろしく」

「は!」


 久しぶりの王城は、使用人の姿しかいなく、俺に対して、軽蔑な目で見ているもの、頭を垂れていた。


「何なんだ一体?」

「はっはっは、勇者様、今のご自身の体を見てください」


 魔王との戦闘、帰りの道中で、装備はかなり汚れていた。

 しかし、そういう感じの振る舞いではなかった気がする。


「王に会う前に綺麗にした方がいいのかな」

「うーん時間もございませんし、装備を外されては?」

「ああ、そうだね」

「こちらで、綺麗にしときますよ」


 騎士団の提案に、遠慮せずお願いすることにした。

 近くのメイドを呼んでもらい、俺は、汚れてしまった肩、腰、胸のプレートだけを渡した。

 渡されたメイドは、俺に聞き取りづらい声で何かを喋っていた。


「この化け物……」

「え?何?」


 近くにいた騎士団員は、焦るようにそのメイドの肩を押した。


「おい、貴様早く行け!」


 顔真っ青にしたメイドは早々にどこかに行ってしまった。


「使用人が失礼しました」

「いや、問題ないですよ」


 後ろにいたミレイユが俺に声を掛ける。


「あなたの装備が汚いから、嫌がられたのよ。きっと」

「ははは、間違いないね」


 まぁ、モンスターの返り血が染みついているからな、嫌がられて当然か。


「では、先を急ぎましょう」


 しかし、アイテムボックスに貴族服がある事をすっかり忘れていた。

今頃言うのも恥ずかしいし、このままの方が勇者っぽくていっか。

 そして、謁見の間に到着し、騎士団員の言葉で扉が開く。


 扉はゆっくりと開き、玉座には、現国王レグレシップ11世と、その脇には、次期国王のカイザー王子、第二継承権のアルマンド王子が座っていた。

 相変わらず、カイザー王子は太ってんな。

 俺の10個上とは思えないほどの間抜け面だ、それとは反対に聡明さを感じさせるアルマンド王子29歳、彼が先に生まれていれば彼が次期国王なのに。

 その隣には、賢者ソーレイ、魔導士ジュピター、騎士ダンケンが凛とした面構え並んでいた。

 それ以外にも多くの貴族たちが二階の方で静観していた。

 玉座までは、騎士団の者達で一本道になっており、玉座の傍まで行き膝を突いた。


「よくぞ、帰ってきたな勇者ユニス、そして、僧侶ミレイユ」

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