第29話 クリスの選択、アラシの選択
ここはアクセルのエリス教会敷地内にある孤児院。
クリスは冒険者ギルドに向かったアラシ達と別れて、この門をくぐっていた。
「あ、クリスお姉ちゃん!」
「お~、クリスだぁ~」
「みんな、クリスお姉ちゃんだよ~ !」
門をくぐった途端に
「クリス姉ちゃん、いらっしゃい!」
「ばっか、違うだろう!」
「「「おかえりなさい!」」」
子供達と歩いて行くと、入り口には顔にしわを刻んだ老婦人が立っていた。
「ただいま、院長先生!」
「よく来ましたね。さあ、お入りなさい」
◇◇◇
お菓子や玩具、人形などを手渡されて、賑やかに走り去っていく足音を背中にクリスは院長の女性と対面して座った。
「それで……何時もは来ない孤児院まで来たのは、何か話したいことがあるのかしら?」
「うん……私、パーティーに入ったんだ。
今までみたいに臨時じゃなくてね、同じくらいの男の子がリーダーで私を入れて女の子が四人なんだ……」
「あなたは、その男の子を好きなのかしら?」
「惹かれてるのは確かかな」
「……他の女の子も彼が好きなのね?」
クリスは頬を染めながら話してしまった。
彼、アラシは困ってるときに手を差し伸べてパーティーに誘ってくれたこと。
最初から仲間として迎えてくれ、自分の部屋まで用意してくれたこと。
すでに、相応の経済力があり、自宅まであること。
一緒のクエストの話、そして魔王軍幹部に傷ついたクリスを見て激怒したアラシが独力で幹部のベルディアを討伐してしまったこと。
「クリス、あなたはどうしたいのかしら?」
「アラシと一緒に生きたい。
でも……アラシは、めぐみんを嫁だと呼んでるし、私は盗賊職だったし、今はアサシンに転職したけど……」
「でも、離れたくないんでしょう?」
「うん !」
「だったら、それが答えよ。
正直言って貴女が冒険者をすると言った時、賛成できなかったし盗賊じゃなく、別な職を選んで欲しかったけど。
盗賊のスキルは、クエスト以外で使ってはダメよ」
「院長先生?」
「貴女がここのことを気にかけてくれるのはうれしいけど、それで危険な目に遭ってほしくないのよ」
「でも……」
「いいこと、貴族の屋敷なんかに入っちゃダメ!
悪徳貴族でも貴族は貴族よ。
最期は国から追われることになるわ。
それにこの国の王家も揺らいでいるようだしね」
「………」
「幸せにおなりなさい。
私たちのことは気にしなくていいのよ」
「お祖母ちゃん!」
思わず抱きついてしまった銀髪の少女。
しばらく彼女は離れようとはしなかった。
◇◇◇
「おかえりなさい、アラシさん。
奥でギルドマスターがお待ちですよ」
「それなんだが、古城の地下で貴族ゆかりの遺留品を見つけて持ち帰ったから、確認して欲しい。
今は裏の中庭にある」
「 えっ、 直ちに係りの者を向かわせます !」
その後、奥の部屋、ギルドマスターの執務室に通されたアラシ達は薦められたソファに座った。
「あれらは、国内の有力貴族の子弟が身に付けていた物のようだね。
主に王都の防衛戦で討ち取られているのが大半だが、どら息子達が金にあかせて、
困惑しているギルドマスターに、めぐみんが自信満々に返答した。
「もちろん、私達が魔王軍幹部デュラハンのベルディアを討伐した証しなのです!」
あっけにとられているギルドマスターに対して、兜と大剣の他にクリスの物を含めた五枚の冒険者カードを差し出す。
「めぐみんの言う通りだ。
カードは嘘をつかないだろう?」
「……いやはや、驚いたな。
たった五人で魔王軍幹部を撃破と言うのも凄まじいが……アサシンの少女のレベル七十オーバーを筆頭に紅魔の少女達は爆裂魔法の使い手に、回復魔法も備えたアークウィザードと来た。
とどめに……なんだね、君のこのステータスは?
レベル四十五は、まあ、王都に行けば探したらいるかもしれないが、なんでほとんどの値が上限近くまでいっとるのかね?
知力まで伸びてるなんて異常だよ?」
勢いよく捲し立ててみたが、目の前の少年の平然とした姿を見て、ギルドマスターは頭痛をおぼえた。
「それで、討伐の賞金はでるのか?」
「もちろん出るとも !
それも三億エリスだ。
……ただ、王都への連絡と確認作業に時間がかかる。
すぐに手渡すことはできない 」
「……金を受けとるのに王都に呼ばれたり、身柄を拘束されてはたまらないな。
まずは、偵察任務の報酬をこの場で払ってもらおう。
確認作業には……この割れた兜を提出しておく。
あと俺達は、アクセルを出るからな !
賞金が出るのなら、振り込んでおいてくれ !
まあ、期待しないで待ってるよ」
「……すまない。
遺留品を持ち帰ってくれた分も上乗せして偵察任務の報酬は五百万エリス払おう。
兜は預かるが、討伐報酬の方は何とかする。
君達は紅魔族だが、何とかベルゼルグ王国のために働いて欲しいのだが?」
「腹の中が真っ黒でヤバイ領主の居るところに長居は出来ないな。
それに、さっきの答えだが、俺達は、紅魔族だ !
魔王軍が敗北続きの地に押し入ろうとしたなら、必ず後悔することになるだろうよ !」
部屋を出る少年少女達の背中を見送って中年のギルドマスターはため息を吐いた。
「アルターブの妨害をはね除けて、そのまま賞金を渡せるか?
いや、魔王軍幹部撃破と言う輝かしい武勲に対して賞金を直接手渡したいと言い出すお方が現れるのではないか?
そうなった場合、彼らが王都に行かなかったらどうなるか?
かと言って国が紅魔の里に攻め込みでもしたら、この国終わるぞ……」
彼は知ってるのだ。
紅魔の里は村と言うより集落に近いが、住民の大人は全員がアークウィザードだ。
侵略者に対して振るわれる圧倒的な上級魔法の嵐には、近づくことさえ、できないだろう。
事実、魔王軍でさえ、毎回のように攻め来んではその度に全滅していると聞く。
ため息も出ようと言うものだ。
「しかしあの少年のカード………他人には、絶対見せるなとでも言っておくべきだったかな」
ギルドマスターである自分でも知らない職業、ハーフボイルドに奇跡魔法。
スキルにもハードラック……
あまりにも規格外過ぎる紅魔族の少年に驚かされていたギルドマスターだった。
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