第20話 パパ、子供の奴隷を購入する


「すみません、ここのゴミを貰ってもいいですか?」



「ん? あ、あぁ。またあんたか。好きにしてくれ」



「ありがとうございます。他にもゴミとか不要な物は無いですか?」



「昨日来たばかりだろ? もうねぇよ」



「そうですか。それでは今ある分だけ頂いていきますね」



 この三日間俺がしていたことは、都市中の店という店を巡ってのゴミ収集だ。



 ゴミと思って馬鹿にしてはいけない。ゴミはゴミでもBPに換算すればそれなりの価値になる。雑草を三百万本抜く必要がないということだ。



 初日は溜まってあるゴミも多くて結構な額になったが、二日目と三日目はその日に出たゴミしかないので初日程の額にはならなかった。



 ただ、目標の3,000,000BPは既に確保できている。今は子供達を買った後に行く予定の病院代であったり、生活必需品を買うためのお金を集めている所だ。



 必要なものは森羅マーケットで揃えてもいいが、外を歩いたりするのに元の世界の服じゃ流石に目立つしな。



 俺が出稼ぎをしている間、ジュノンのことはロドスさんがお世話をしてくれている。必要なものは余るくらい渡しているから大丈夫だとは思うけど、想像以上に子供のお世話をするのに慣れていて驚いた。



『昔、子供の世話をしていたことがありまして。まだ若造の頃でした。懐かしいですね』



 哀愁溢れる表情でそう言ったロドスさんの顔が思い浮かぶ。自分の子供のことでも思い浮かべているのだろうか。ロドスさんもジュリエッティさんも年齢はわからないけれど、どちらも孫がいてもおかしくないように見えるしな。



 ……ジュリエッティさんは無いか。いやいや失礼だな。




「あらシロウ。約束の時間通りね」



「お待たせしました。お仕事前なのにすみません」



「いいのよ。知り合いの医者にも声をかけておいたから。そのまま連れて行ってあげなさい」



「何から何まで……ありがとうございます」



 ジュリエッティさんには本当に良くして貰ってる。最初に出会った頃はイカれたOKAMAだと思っていたけど、今はその筋肉すら美しいと感じてしまえるほどには恩を感じている。



 俺とジュリエッティさんが待ち合わせしたのは、三日前に訪れた奴隷商。




 今日は、子供達を買う日だ。




 あの子達はこの三日間、どんな思いで待っていたのだろうか。



 希望を持ってくれているといいな。もしかしたら絶望かもしれないな。



 人に買われるということは自分の権利を奪われているということだ。他人に自分の権利を握られるなんて恐ろしい以外の何物でもない。



 でも、奴隷のままいさせるよりはマシだ。



 もちろん買った以上は責任を持って一人前になるまで面倒を見させて貰う。



「なぜシロウはそこまで子供を助けようと思うの?」


 ふと、ジュリエッティさんがそんな言葉を紡いだ。



「あなたの故郷では子供はおろか奴隷もいないということは理解したわ。でも、それが子供を助ける理由にはならないわよ。子供が好き、という理由だけではここまで行動出来ないものよ?」



 確かに。言われてみれば今の俺は少しおかしいか?



 子供は好きだ。一日一日毎にいろいろなことを覚えて成長していく姿を見るのが何よりも癒される。



 ただ、それだけでここまで行動を起こしたりはしない。



 前世のことを思い返しても、難しい家庭で育った子供や、いじめを受けている子供に対して支援を行う活動をしていたりするわけじゃなかった。



 もちろん、そういう話を耳にすれば心が痛んだし、どうにか出来ないのかと思ったこともあったが、結局は日々家族の生活を守ることで精一杯だった。



 それなのに、異世界に来ただけでどうしてここまで出来るのか。




 多分、それは——




 この異世界に来てジュノンに出会ったからだろうな。



 人は生まれてから大きくなるまでに生まれた意味を探し続けて、結局わからなくて、でも何かを理由にして納得していく生き物だと思ってる。



 俺も前の世界では色々なことを経験した結果、家族と共に生きるということが俺の生きる意味になった。死んでしまった今となっては、生まれた理由を全う出来たかは正直わからない。



 そして、この異世界にやってきた。



 そうしたら考えるだろ? 俺はなんでこの世界に来たんだろって。俺が生まれた意味を求めたんだ。



 ただ、そんなことは考える必要すらなかった。



 俺の手の届く距離に、俺の手助けがないと命を落としてしまう赤ん坊が俺にこの世界で生きる意味をくれたんだ。



 だから、俺はこの世界では子供を絶対に見捨てない。俺の両手一杯になったって、口で掴んで引っ張り上げる。



 そうすることで、俺は前の世界に生まれた理由も精算できる気がしてるんだ。



 琴音と奏音に出会わなければ、異世界に来てまでこんなことを考えなかった。二人がいたからこそ、この世界でも生きる意味を見つけれた。こんな世界でも染まらずに足掻くことが出来る。



 なんだ。そう考えたら、ただの偽善じゃないか。上から目線で俺が生まれた理由があったと世界に言わせるために、子供を助けるんだ。



 偽善上等。



「ジュリエッティさんにとって、子供ってどんな存在ですか?」



「私にとって? そうね……愛の結晶かしら」



「素敵な答えですね」



「そう? シロウにとっては?」



 俺は奴隷商の建物のドアに手を掛けて答える。



「未来、ですかね」



「あら、シロウも素敵よ」



 思い切りドアを開ける。この扉が希望の扉だと願って。



「いらっしゃいませ。時間通りですね。準備は出来ておりますよ」



 扉の先には五つの未来が少し小洒落た格好で立っていた。



「子供達を、買いに来ました」





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