第14話 パパ飛んで飛んで飛んで飛んで回って回って回って回る


 拝啓。


 奏音。そっちはどうだい? 元気にやっているかい?


 元気なわけないよな。ごめん。でも何とか母さんと二人三脚で頑張ってほしいよ。



 辛い思いばっかりさせたよね。



 ところで、目の前にOKAMAが降ってきたんだ。



 どうしたらいいと思う?



 お返事待ってます。助けて。






「それで、あたしを探してるのはあな——そう。あなたがその子を連れてきてくれたのね」




 そう言ってオカマは慈しむ様な表情で俺を見た。いや、正確には、俺の胸に抱かれているジュノンを見た。



「もし違っていたらすみません。あなたがヴァイパーさんですか?」



「その名前はとうの昔に捨てたわ。ジュリエッティと呼んで頂戴」



 なんか悲劇の物語に出てきそうなヒロインっぽい名前だな。



「な!? あの三大巨漢の一角を担う、ジュリエッティが何でこんなところに!?」



「三大巨漢といえば、この都市で絶対に手を出してはいけない三人の内の一人じゃねぇか!!」



 急にモブっぽくなった五人組がモブっぽい口調でモブっぽい説明をしてくれた。かつてこんなにもテンプレートよろしくな説明はあっただろうか。



「そこの人達は知り合いなの?」



「いえ、知り合いではないですが」



「まさかあんた達、この子に絡んでたんじゃないでしょうね?」



 空気が一瞬凍りつくとはこのことか。ボケてスベる以外に凍りつくことがあるんだな。



 突然放たれたOKAMAの威圧により、五人組が萎縮してしまった。



「い、いえいえ! 都市に入りたいってんでお手伝いをしようかと……」



「あら、そうなの?」



「まぁ……お願いしようと声はかけましたね」



「そうだったのね。それじゃこの子達は私が引き取るからあなた達はもういいわ」



 そう言って俺の背中に触れるジュリエッティ。でかい。手がでかい。そして何故か悪寒がする。そう……食べられちゃうかもしれないという恐怖だ。



 いや、ここで手助けをしてくれる人がそんなことをするはずがない。




 ない……よな?




「そっちは——確か、冒険者イグアナだったわね」



「我を知っていたか。剛鎧ごうがいのジュリエッティ」



 ジュリエッティさんは次に、イグアナという名の隻眼の男に声をかけた。どうやら知り合いではないらしいが互いに名前を知っているようだ。



 というかジュリエッティさんはこの都市の中では有名人みたいだな。一体何をしている人なんだ? あの狼の話では魔族だって言っていた気がするけど……



 まぁ空から降ってきて傷一つ付いていない姿を見ると確かに魔族っぽい。というより人間じゃないから魔族っぽいが正しいか。



 剛鎧と言われてるみたいだけどセンスあるな。まさに剛鎧。



「あなたもこの子に用があるの?」



「いや、そこの連中に絡まれていそうだったから声をかけてまでだ。要らぬ節介だったな」



「そうだったのね。ありがと」



 ジュリエッティさんがイグアナさんに向かってウィンクをする。大丈夫?イグアナさん。腕とか飛んでないよね? 




「それじゃこの子達は私が連れてくけど文句は無いわよね?」



 ジュリエッティさんがイグアナさんと五人組に確認するように声をかける。どちらも問題ないようで、ただ頷いて返事をするだけだった。




「ありがと。それじゃ行くわよ?」




 その瞬間、背中に触れていたジュリエッティさんの右手、いや右腕——いや、大蛇が俺の腰から巻きつき、太腿の裏を掌に乗せるような形で俺を持ち上げた。



 この体勢には馴染みがある。そう——腹痛のときに洋式トイレで蹲っている体勢だ。ただし便座は背中に腕——じゃなくて大蛇、太腿の裏に掌だが。



「ちょ、ちょっと待ってください! このまま行くんですか?」



「あら? 男の子が小さい事を気にしちゃダメよ?」



「いやいやいや!! ジュノンもいますし!」



「その子なら大丈夫よ。強い子だからね」



 この世界の魔族達は赤ん坊のポテンシャルを過大評価し過ぎでは!? あの狼といいジュリエッティさんといい、一体何を根拠に言っているのだろうか。



「あ、あの……俺達の馬車は……」



 ふと、そう呟いたのは五人組の中で最初に俺をおっさんと呼んだ男だ。




「……またねっ」




 その声が聞こえた瞬間、浮遊感が全身を駆け巡る。



 おかしい。俺はさっきまで地面にいたはず。それなのに今は空に浮いている……いや、飛んでいる? 高度がどんどん上がっていく。



 どういう原理なんだ? ジュリエッティさんが飛んだのか? それにしては衝撃とかが無さすぎる。



「だぁ!! ぶぁああ!」



 いつの間にか目を覚ましていたジュノンも、どうやらこの状況を楽しんでいるようだった。



 首が座っていないから"たかいたかい"はお預けしてたしな。もしかして魔族の"たかいたかい"はこのレベルなのだろうか。だとしたら俺がジュノンを満足させられる"たかいたかい"はしてあげられないかもしれない。



 だがしかし、おかしい。このまま都市の中に着地するかと思ったら、都市を通り越して反対側の山に向かっているように見える。飛びすぎだ。



 張り切りすぎて目算を誤ったのかな?



「そろそろ落ちるわよ!」




 落ちる? 落ちるとは……





 お、落ちるですよねぇぇぇぇぇぇぇええええええ!?!?!?





「うおわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」




「だばぁぁぁ!!」




「ははははははぁぁ!!」




 このOKAMA。やりやがったな。

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