第24話 夢裡――

あれから何時間が経ったのだろう……。

「空良、ねぇ…空良、起きてよ。そろそろ起きないと、最終バスに乗り遅れるよ」

僕のシンデレラは何度、僕が名前を呼んでも起きることはなかった…。

このまま目覚めなかったら『どうしよう…』と、僕はちょっぴり不安になった。

この状況であたふたしているのは僕だけで、それでも無音で流れる時間だけは

刻々と過ぎていた。辺り一面、見渡す空間は幾千粒もの星達が姿を変えては再び

煌びやかな輝きを作り出し、広がる満天の星空を見ているうちに、ついに僕も

睡魔に負け、疲れた瞼はどんどん落ちていくのだったーーー。


頭を寄せ合い無防備に眠る二人の表情は幸福感で満たされた笑みでいっぱいだった。




僕は完全に夢の中にいたーーーーー。


『ーーーIQ200!? 博士、特上です!! 特上頭脳が入荷いたした』

『よし、彼の頭脳をデータに完璧な人工頭脳を作るぞ』

『はい』


そんな会話が奥耳へと伝わり微かに流れ込んできた。

だけど、僕はまだ目覚めることが出来ず、苦痛の脱力感と身体を締め付けつような

重圧感に捕らわれ身動きさえも奪われていた。

そして、光も通さない冷たい鋼鉄の箱に囲われ、背中からヒンヤリとする

冷たい感触に『ハッ』と、目を覚ますのだった。


なっ…なんだ、これは……

その視野に入り込む世界にゾクッと鳥肌が立つ。

僕の手足は動かないように鎖で固定されている。

無理やり手足を動かしてみたが鎖はビクともしない。

しかも足首は鉛のようなものでガッチリ固定されている。

上半身を起こそうにも身体が思うように動かず、力を抜いた身体は仰向け状態のまま

バタリとベットへ戻された。僕の視線にはコンクリートでできた天井が映り、一点に集中させ漠然と見つめていた。

『っくそ…なんだよ、こりゃ…ちっとも動かねー…ちくしょう…』

終わった――――ーーー。

僕はもう…これで終わりだーーー。


そう…この状況は……まるで、死刑台に寝かされている囚人みたいだ。


いったい…僕が何をした!?


「僕はどこも悪くない。早く、ここから出して下さい」


僕を助けて……空良……


そう言えば…空良…? 空良はどこだ…?


辺りを見渡すが、空良の姿はどこにもない。


「おい、空良をどこに隠した!? 空良? 空良――無事なのか!?」

僕は思いっきり声を張り上げて叫ぶが、まったく応答ナシ。


上半身裸で 手足を鎖で縛り、いったい、これから何するつもりなんだよ。

それでも僕は頑丈に繋がれた鎖をグイグイ引っ張って手足を動かしてみるが、

ビクともしない鎖に手足は擦り切られ、 もはや傷みさえも感覚がなくなっていた。


くっそ…ダメか………


何か…僕って…ホント…最悪だ…


大切な人…一人も守れないなんて……空良…ごめん…


               ――――――――――情けない………



「聞こえますか、臼井大地君」


四方八方 囲まれたコンクリートの部屋に男の声が響く。


誰だ…?


僕はキョロキョロと首を動かし周囲を見渡すが、どこにも人の姿はない。


「そこの居心地はどうですか?」

男の声には感情がなく冷静と冷酷さだけを持ち合わせた声色は乱れることなく、

落ちついた口調だった。

「ふざけるなっ。顔、見せろ」

気づくと、僕は荒だたしくて強く大きな声を張り上げていた。

それこそ普段はあまり人には見せたことのない怒りの感情だった。

「僕をどうするつもりだんだよ!!」

そう言った僕の声も男には通用せず、男の声は途切れ……

部屋は一旦、静まり返った。


ーーーと、その時だった、


天井に備えつけられたスクリーンが下りてきて、プチッという電源音と共に

50代から60代の白衣を身に着けた科学者か医者のような格好をした声の主と

思われる中肉、中背の男が現れた。

「君は私の研究材料です。協力してもらいますよ」

男はピクリともしない眉を定着させ、真顔で言い放つ。

「研究だと!? ふざけたこと言ってるんじゃないよ。早く、僕をここから

出して!!」

「それは、無理ですね」


男がそう言った後、何やらザワザワと足音が聞こえ、男と同じような格好をした

数名の男女が機材を持って入室してきた。

「なっ…何を…」

「彼らは私の助手です」

「助手だと!?」

「さあ、はじめてください」

彼らは無言でゴクリと頷く。

「私も今からそちらに向かいます」

「……!?」

彼らの視線は僕に焦点を置き、一斉にこっちに向く。

そう…感情なんて彼らには通用しない。

なぜなら、その目は狙った獲物を仕留めにかかるような、

…そんな黒い目をしていた。

「…めろ…」

身体中に電流が流れるように全身が震え、声が出ない。

「…やめ…」

彼らは男の指示に従い、黙々と作業に取りかかる。

身動きがとれない僕の頭や体中にベタベタと何やら貼り付けている。

これは…脳波や体の動き、細胞を調べる機械か……。

準備が整え終わった頃、「ガチャ」と、扉が開いた―――。

「準備が終わりました」

「そうか……」

男はゆっくりと近づいてくる。

「脳波は正常に動いています」

そりゃ、そうだ。僕は一度記憶したら、忘れない。お前ら全員、僕の脳内に記憶しているからな、ここを出たら全員、警察に突き出してやる。

「さすがIQ200。素晴らしい…君はどう思う?」

「はい、彼のIQはまだまだ上昇しますよ」

え…この声……

「だって、私が見込んだ男ですから」


……!?


 ―――ーーーそ…ら…


僕の目に空良の姿が映る―――……


嘘だろ……


「さあ、はじめようか……」


「はい……」


「先に脳を採取いたしましょう……」


脳を採取だと……!?


「メス…」


「はい……」

助手が男にメスを渡す。


―――――――やめろ……


空良がコイツ等の仲間!?



これは何かの間違いだ……やめてくれーーー



「うふっふっ……」


僕の目にあざ笑う空良の歪んだ顔が焼きついていた―――ーーー。


ーーー!?


         ――――――――ーーーーーやめろ!!!―――――ーーーー。











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