第20話 空良が忘れたブーメラン

僕は初めて誰かの為に何かしてみたいと思った。


そして、空良の為に僕ができることは何だろうかと探してみた。

その時、僕はいつしかあの河川敷で空良が忘れていったブーメランの

ことを思い出した。僕は机の一番下の引き出しから宝物箱を取り出して

開ける。その中には色褪せていない、あの時のままのブーメランがあった。

「そういえば、すっかり返し忘れていたな」

空良は覚えているだろうか……

僕はブーメランを手に取り、あの淡い日の光景を頭に思い起こしていた。



 翌朝、早めに家を出た僕はいつもの河川敷で空良が来るのを待っていた。

昨日、告白したばかりなのに、まだ返事も聞いてないのに、待ち伏せなんて

行為をストーカーだと思われないだろうか? いや、大丈夫だ。

僕達は知らない間柄じゃないし、空良が僕のことを覚えていたのは確かだ。

それに、このブーメランを見れば、空良だって何か思い出すかもしれない。

僕はブーメランが入ったカバンをぎゅと両手で抱きかかえると、嬉し気に

空良が通るのを待っていた。

「大地? 何してるの?」

空良の声。空良は上目遣いで下から僕の顔を覗き込んできた。

「うああ…そっ空良!!」

ビックリしたああ……。

「何? そんな声出して」

「いや、そのビックリして」

「しゃっくり?」

「しゃっくりじゃなくて、ビックリね。驚いたってこと」

「そうなの? なぜ、驚いた? 初めて会ったわけじゃないのに」

「そうだけど…。ほら、空良が突然、出てくるから」

「ふーん。大地って変わってるね」

「空良に言われたくないけどね(笑)」

「…?」

「空良も相当、変わってると思うけど…(笑)」

なんか調子狂う…。

顔は空良なのに、空良じゃないみたいだ。

まあ、空良も普通の女の子なんだな。今日も空良、なんか可愛いい……

年頃の女の子だし、きっとオシャレもするし、恋もするんだろうな…。

(恋の相手は僕じゃないかもしれないけど…。っていうか、たった1年ちょっとで

こんなにも変わるものだろうか…見た目もそうだけど、中身だって……。

いい香りのシャンプーの匂いがする。隣にいてもプンプンと漂ってくる)

「あ、そうだ。空良に会ったら、コレ返そうと思ってたんだ」

僕はカバンからブーメランを取り出して、空良に渡す。

「……これは?」

「覚えてない? 空良のブーメランだよ」

「ブーメラン?」

「あ、そうだ。そのブーメラン、試しに飛ばしてみたら?」

「とばす?」

空良はブーメランの飛ばし方も忘れてしまったのだろうか。

「思いきり投げるんだよ。ブィーンって!」

僕は身振り、手振りで投げる格好をしてみた。

「こう?」

と、空良はブーメランを持つ手を振り放つ。

ブィーーーーンーーー

「空良はね、めっちゃブーメラン飛ばすの上手だったんだよ(笑)」

そう言いながら僕は下目になった視線の先をフッとブーメランの行く先に向けた。 

『…え!?』

勢いよく空良が飛ばしたブーメランは空高く伸びた後、空良の元へと

正確に戻ってきた。

その体の一部となったブーメランの扱い方に昔の空良の面影を重ねる。

おおお……さすが空良……。

空良の体が覚えているのだろうか……。

「おもしろいね、これ。メチャクチャ簡単(笑)」

「え?」

(ハッハッハッ…僕が初めて、ブーメランを飛ばした時、失敗したんだけど、、、)


空良は無邪気に笑っていた。よっぽどブーメランが気に入ったのか、

空良はブーメランをビュンビュン飛ばしては自分の手の中に返って来る

ブーメランに大はしゃぎで楽しんでいる。時間が経つのも忘れるくらいに……。

僕もそんな笑った空良を見るのは久しぶりで、思わずポロリと笑みを零す。


その穏やかで自然が流れる時間を忘れるくらい僕は空良の横顔に没頭していた。

僕は空良と並んだ数センチの距離を縮めたくて、一歩横に移動する。

空良はブーメランに夢中で僕の些細な行動に気付きもしていない。

無防備すぎるだろ。でも、僕も男だった。

たった1年とちょっとで僕も女の子に対する意識が高まっていたのは本当だ。

それは空良のことを友達とかじゃなくて異性として見ていたことに気付いたからだ。

他の女子には全く感じなかった。触れたいとかドキドキ胸が高鳴るほど熱く体温が

上昇する感情が次第に僕は空良のことをずっと見ていたくて、それでも もっと

空良に近づきたくて、空良に触れたくて、空良にキスしたくてまらなくなっていた。

僕の本能が空良を求めている。

あと少し、あと少し、僕は少しずつその距離を埋めていく。

指先が空良の手に触れたいと近づく間際で空良が僕に視線を向けた。

目と目が合った時、不意に僕は瞳孔を逸らし、ハッと我に戻った僕のその行為は

行きとどまった。


「大地、私に触りたいの?」


ドキ……


「……な、何言ってんの…僕は別に…」

僕は自分の行為があまりにも恥ずかしくなり、真っ赤な顔で慌てながらも

何とかごまかす。


もしかして見透かされている? 透明感のある瞳……


そんなこと昔の空良には感じた事なかった……


「……いいよ…」

「え…?」

「私、大地ならいいよ」

「それって…」

「昨日の返事…」

空良は僕の手を取り自分の胸へ押し当てる。そして僕の体は空良に引き寄せられた。

むぎゅとした柔らかな膨らみが僕の手に熱く伝わってきた。

空良の唇までの距離は1ミリもない。

ドキドキがもう止まらない。


「オーケイだってこと」

「……!?」


空良の柔らかな唇の感触を感じた―――ーーー。


甘くてトロけるようなストロベリーの味だった。


イチゴの飴でも食べたのだろうか……


僕の甘い甘いファーストキスは澄んだ青空を通り抜け一瞬で天国まで

ぶっ飛んでいくような衝撃的な出来事となった。


きっと僕は空良の唇の味を忘れないだろう……


甘くてトロけそうなストロべりー味を―----……

                 僕は一生忘れないよ……――――。

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