第18話 記憶~メモリー~

 今、僕達は河川敷ここであの日、見ていた時と同じ景色を見ている。

まだ、肌寒さは少し残るが暖かい日差しは確実に訪れて来ている。

僕達が今、こうして隣同士、並んで景色を見ていられるのはきっと、

あの事故の後、誰かが救急車を呼んで助かったからだろう……。

まさか、また、こうして空良と並んで同じ景色を見ることができるなんて

思いもしなかった。

あの日、僕は事故に遭って記憶を失い、秋霖学園を受験できなかった。

僕の記憶に蘇る大量の血。多分、空良が咄嗟に僕をかばって流した血だ。

空良は僕より酷いケガを覆っていたはずだ。なのに、空良は今、僕の隣にいる。

「空良はケガ大丈夫だった?」

「……」

だけど、空良の反応は少し鈍い。もしかして、空良もあの日の記憶を失くしている?

僕より酷いケガだったもんな。記憶を失くしていても不思議じゃない。

現に僕はこの一年間、あの日の事を思い出せないくらい記憶を失くしていた。

僕の記憶を思い出させてくれたのは空良だ。

「僕より酷いケガだったよね?」

僕は伺うように空良にさりげなく聞いてみたが空良は黙ったままだった。

僕はスマホを取り出し待ち受けにしている2人が映った写真を空良に見せる。

「この写真は空良だよね?」

高校生になった空良の外見は随分、大人っぽく変わって見えるが面影はある。

天然パーマがストレートになり色褪せた茶系色が黒髪になっただけだ。

髪が長くなっただけで女の子はこんなにも変化するんだと、僕の心臓は

ドキドキ高鳴っていた。

「‥‥」

空良は何も言わなかった。

「僕のこと覚えてる?」

もしかしたら僕の事を忘れているかもしれない。

それでも僕はダメもとで聞き返す。

「大地。名前は臼井大地―――」

空良の口から僕の名前が出た。しかもフルネーム。

空良は僕の事を覚えていた。僕はその事がとても嬉しかった……。

「頭いいのに存在感がまったくない男だと記憶している」

そう言ってこっちに視線を向けた空良は温厚で穏やかな笑みを浮べていた。


記憶している!? 変な言い方をするんだな…。

昔みたいに上から目線じゃないし、エラソーな口調で言ったりもしない。

でも、この時の僕はそんな小さな違和感などあまり深く考えていなかったーーー。


確かに空良が言ったことは当たっている。

僕の存在感ナシは昔からだ。だけど、空良は…

空良だけは僕の存在に気づいていたね。



そして、空良は言った―――ーーー。



「私が目覚めた時、私の頭脳にあったメモリ―は大地しかインプットされて

いなかった—――」


え、インプットって……!?


それは、僕の事しか覚えていなかったってこと!?


それはそれで、ちょっと嬉しいかも……(笑)


「じゃ、僕が空良の記憶が戻れるようにお手伝いしてあげるよ」

「記憶が戻る???」


空良はキョトンとした顔で僕を見ていた。

その顔が何ともいえないくらいに可愛くてたまらない。

こんな事、言ったら昔の空良ならきっと―――ーーー

『大地! 何言ってんだ、気色わりぃヤツだな!』

――って、どや顔で言い放つだろう。しかも上から目線だ。

まあ、それはそれで…ハキハキした空良の口調も僕は好きだったけど…。


「大丈夫だよ、空良…。きっと、空良の記憶は戻るから…心配ないよ」

空良はニッコリ微笑んでこっちを見ていた。

「―--って言っても、僕の記憶も全部戻ったわけじゃないけどね(笑)」

「……!?」

「ねぇ、空良…。じゃ、わかった。こうしよう…二人で記憶探しをしていこう」

「記憶探し?」

「そう…記憶探し!!」


多分、それは僕にとっても空良にとっても残酷で不条理な結果が

待っているかもしれい。

だけど僕はどんな結末が待っていたとしても、例え未来で僕と空良が

結ばれることがなかったとしても僕は知りたいんだ。


僕と空良にはどんな未来があるのか……


二人の行く末を僕は知りたいんだ――――ーーーー。








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