第17話 (回想)秋霖学園、受験当日の朝

 あの日の朝、いつもの時間より少し早めに家を出た僕は普段と同じ

通学路でもない河川敷が見える土手を歩いてバス停に向かっていた。

別に空良と待ち合わせしていたわけでもなかった…。

でも、僕はほんの少し期待もしていた。もしかしたら、河川敷ここに来れば、

空良に会えるかもしれない…会えたらいいなあってそう思っていたんだ。


僕の視線に空良が映ると僕は安心する。

あの日も空良はブーメランを飛ばしていたね。


空良は僕に気づくと思いっきり土手まで駆け上がってきた。

『受験、今日だろ?』

『うん、今から行くとこ』

『そうか…』

『え、もしかして待っててくれたの?』

『これ、渡そうと思って』

『え?』

空良はグーにした手を僕に差し出し、ゆっくりと開けた。

そこにはお守りがあった。

『これ…』

『その…受験、頑張れよ』

『空良。ありがとう(笑)。めっちゃ嬉しい』


天気は晴。穏やかに流れる雲が空から僕達を見ているようだった。


僕は空良から受け取ったお守りを学ランのポケットにしまうと、

空良と別れ、足を進めて行った。

空良に背を向けて手を振る僕に『大地、頑張れよ』と、

空良は見送るように僕にエールを送っていた。


―――その時、

「……!?」

後方からボディを赤く染めたスポーツカーが規定速度を超えたスピードで

空良の横を勢いよく走り抜けた。一時停止のある横断歩道を止まる気配もなく、

速度は減速せずスマホを手にし、片手間に運転していた20代後半の若い男が

大地に気づいたのは接触する寸前だった。

『‥‥!!』

脳裏に嫌な予感が突っ走った空良は『大地……あぶな…』と、言葉を口にするよりも先に体が動いていた。


『キィーーーー!! ガッシャンーーーーーー!!』


人気ひとけのない土手の中央にある横断歩道付近に酷く荒だった衝撃音が

鳴り響く―――。

当る直前で運転手はハンドルを切るが間に合わず、スポーツカーは大地と

大地をかばって飛び出した空良をねた。

急ブレーキをかけたが間に合わず2人をねた後、スポーツカーの赤いボディーは

半回転しながら後輪部分が土手ギリギリで止まり停車する。

『!?』

衝撃音に驚いた運転手が汗ばむ手でハンドルを握りしめ俯く顔を上げる。

男の視線の先には倒れている2人の姿が映る。

しかも、大量の血を流している。周囲には人の気配はない。

男は怖くなり車を発進させた――――ーーー。

その時、すでに思考回路が回らなくなってしまっていた男は大地の

カバンを踏みつけにしたことにさえも気づかず、そのままスポーツカーは

逃げるように走り去ってしまった。


僕はやっぱり不運星人だった。

そして、同じ誕生日である空良もまた不運星人だったのだ―――ーーー。


血を流し倒れた僕の手に重なるようにして隣で頭から大量の血を流して

倒れているのは空良だったーーーー。

冷たい風が僕達の体に痛く吹きつけるが、もはや寒さや痛みの感覚さも

なくなっていた。

そして、朦朧もうろうとした視界に見えるのは目を閉じたまま動かなくなって

いた空良の傷を浴びた顔だけだった。


『空良……』

薄れゆく意識の先に僕は必死に空良の手を握る。


空良はもう死んでしまったと思ったーーー。


そして、僕も……もうダメかもしれない……。


『空良…僕も今…そっちに行くからね…。空良を一人で逝かせたりはしないよ』



その後、僕は意識を失った――――ーーー。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る