第13話 想い人

あの夏祭りから半年が過ぎようとしているのに、

僕は彼女の横顔が脳裏に刻まれていて忘れられないでいた。


『空良ー』


彼女の友達らしき子がそう呼んでいた。


彼女の名前は『空良』。


空良、空良、空良…これは何だろうか……と、僕はずっと心に

引っ掛かりを感じていた。この名前を聞くと条件反応が起こり、

気づいたら僕の視線は彼女を追いかけ探していた。

僕が忘れている記憶に関係がある『名前』なんだろうか。

存在感がなく、一人も友達がいないくせに『空良』という名前に

親しみを感じているのはなぜだ!?

もしかして『空良』という子が僕の知っている子だったから?

『友達』、『親戚』、『恋人』……

こ、こ、恋人…!? ま、まさか…な。

彼女が僕の恋人!? 僕達、付き合っていたのか?

僕は自分に問うが、僕の記憶があまりにも曖昧あいまい

はっきりとは覚えていない。


僕はまた昨日会った彼女の事を思い出し、よからぬ妄想が頭の中で始まっていた。


でも、あの時…確かに僕と彼女は目が合っていた。そりゃ、真っ暗い夜では

あったが、所々に設置された街頭と屋台の明かりで僕が彼女の顔が見えていた

と同じように彼女にも僕の顔が見えていたはずだ。

だが、彼女は無反応だった。僕に視線を送るだけ送って、無反応って……

もしや僕の反応を伺っているのか。いや…そんなはずはないと思うが、

なぜだかわからないが、僕は彼女の事が無性に気になってたまらなかった。


年上? 同い年? 年下?

誕生日は? 血液型は? 星座は? 趣味は?

どんな男の子がタイプ? 可愛い系男子? それともカッコいい系男子?

甘々な甘えん坊男子? イケイケ、グイグイ迫ってくる男子?

ダメだ。僕はどのタイプの男子にも当てはまらない。

 

可能性が1パーセントでもあるなら秀才系男子なんだろうが……

女子軍が理想とする秀才系男子は秀才に加えイケメンというのが

お決まりらしい。現に僕は秀才ではあるが存在感がまったくない。

これはプラスどころかマイナス以下だろう。話にならないということか……。


知っているのは『空良』という名前だけ。


だけど、昨日、初めて会った気がしなかったのはなぜだ?

僕は前から彼女の事を知っていた?

それも僕の憶測おくそくにすぎない。

突っかかっている何かがめちゃくちゃ気持ち悪くてたまらない。


彼女を思い出すたびに心音が高鳴りドキドキする。

これは何の現象だ……。

ま、まさかこれが恋? 一目惚れ?

わからない……


でも…なぜだかわからないけど、僕はまた彼女に会いたいと思っていた。


偶然でも、必然でも、ただ すれ違うだけでも、どんな情況でもいいから

僕はもう一度彼女に会いたいと心からそう思ったんだ。


彼女の事を考えるといつの間にか知らない感情がどんどん溢れだし、

引き寄せられていく。



そして、僕は彼女への想いを日々、募らせていた――――ーーー。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る