第6話 睨み

呼びかけられるまで、心春はしばらく身動きできずに突っ立っていた。

イリスはいつもの柔和な笑顔は全く見せずに、無表情で映像を止めた。

「……見た?」

睨みつけるようにして心春に尋ねる。

答えなくちゃと思うけど、何て言えば良いのかわからない。

『なにも見てないよ』

──だめだ、きっとイリスには嘘だと見透かされる。

『見たよ。全然普通のカップルと変わらないね』

──ちがう、なんかすごく薄っぺらい感じがする。

頭の中がぐるぐるしたまま、心春はなんとか言葉を振り絞った。

「覗くつもりはなかったんだけど……、それより、もう大丈夫なの?クラスの女子からの手紙を預かってきたよ。みんな心配してる」

「……心春ちゃんには関係ないでしょ」

イリスは眉間に思いきり皺を寄せて、目を逸らした。

唇をきつく結んで黙りこむイリスを見ているうち、だんだん腹が立ってきた。心春は、来たくて来ているわけじゃないし、わざわざ心春の家とは反対方向のイリスのところに来たのに、こんな言い方をされる筋合いはない。

ざあっと葉擦れの音がやけに響く。

「あのさ。イリスの為にみんなが力を合わせて、せっかく制服が変わったんじゃない。なのに急に学校に来なくなるし、誰にもメッセージすら返さないなんて……何が不満なの?」


 そう、クラスメイトを始めとして、学校の生徒達はイリスの為にすごく頑張ったのだ。


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