第29話 ギルドからの案内人

「貴方たちは?」


 男が机より降り、アルフレドに近づいてくる。薄暗く姿がはっきりとしなかったが窓の光が男に当たると全貌が明らかかになる。長身はよく鍛えられおり、筋の節々が盛り上がっている。上半身、下半身共に厚手の革でできた鎧を装備しており、黒髪で長髪、伸ばし髪を後ろで結ぶ。腰には大振りの刀を差している。


「お初にお目にかかる。コテツ・ド・バリアーニョと申す。コテツとお呼び下され」


「コテツさん……? 私はアルフレド・シュミットです。こちらに何か御用ですか?」


「ギルドの依頼でこちらに参った。町長の正式な依頼で貴方の手助けをして欲しいと依頼を受けておる」


(依頼?)


 もちろん、セントよりそんな話は聞いていない。布教の手助けをするといっているが、このいで立ちに存在感、威圧で後ろに後ずさりそうである。素人のアルフレドでも分かる。この男は只者ではない。


「ありがとうございます。セントさんからは何も伺っておりませんが具体的にはどのような依頼を受けているのですか?」


「依頼内容を聞いておらぬと? 主となるのは護衛でござる。後はこのピートモスについて聞いたことに対し答えるように伺っておる」


「護衛と……助言ですか?」


「左様。申し遅れましたが隣の者は拙者の助手をしております蛍でございます。よろしく頼みます」


 蛍と呼ばれた小柄な者がコテツの横に並ぶと頭を下げる。腰に差した脇差に手を添え背筋をピンと伸ばしている。ヴェールの先は見えない、こちらから表情を確認することはできないようだ。


「コテツさんありがとうございます。明日より布教活動の準備に取り掛かりたいと考えているのですが宜しいですか?」


「アルフレド殿、拙者に許可を取る必要はない、明日より自由に行動されよ。奥の部屋に以前の住人が使っていた物がある。必要であれば自由に使ってもらって結構。それでは明朝に顔を出す。さらば」


 コテツと蛍はそのまま背中を向けると雨の中を帰ってゆく。


 背をしばらく見送った後にファーと共に奥の部屋へと向かう。コテツの言うように奥には以前の住民が使っていたであろう家具一式と毛布が置かれていた。


「埃を被っているが、俺が使っていた毛布に比べれば上等の毛布だ。ベッドも軋むが問題ない。明日から布教活動だ。セントが何もしかけていないとは考えられないが……」


 先ほどまで馬車で眠っていたというのにアルフレドはすぐさま眠りにつく。奴隷時代に培われた、どこでも寝れる特技はいまだ健在のようだ。


 ~~~


 翌日。


「うおっ!!」


 目の前には不気味な仮面。自分を覗き込むようにファーの顔がある。ひょっとして俺が寝入った以降もずっと覗き込んでいたのであろうか? いや、まさかそれはないだろう……なしであって頂きたい。


 あまり目覚めのよい寝起きではなかったが、外の天気は控えめに言って最高だ。北部に比べ日差しは強く、風も弱いため外套を着なくても快適に過ごせる。


 外にはすでにコテツと蛍が待機していた。どうやら南部を仕切る者へと案内をしてくれるようだ。森を抜けてすぐ、町の入り口にアルフレドが住む神殿。そこからすぐに広場があり、北部との境目にある谷を背にしてぽつぽつと家が広がる。


 コテツと蛍が前を歩き、アルフレドとファーがその後に続く。町を訪ねて来るものが珍しいのか、はたまたコテツと蛍が案内している者の興味があるかは分からないが、家より住人達が顔をだしアルフレドを観察している。


 笑顔を作り、時折会釈や手を振ってみたりするが住民の反応はいまいちである。皆、疲れ切っており生気を感じない。子供から老人までこの世に何も期待していない。そんな表情を浮かべている。


 しばらく歩くが町に特別なにかあるわけではない。町を代表するような特産物は何もないのかもしれない。やがて、南部の村を仕切る者の家についたのか、コテツが家の前で立ち止まる。


 コテツは南部を仕切る者と言っていたが、その主が住む家は他の町人が住むあばら家とたいして変わらない。この家主は経済的にうるおっているわけではなさそうだ。


「ここが南部を仕切っているナグモの家だ。セント殿からある程度の事は聞いている。話しをすると良い」


 部屋をノックすると間もなくしてドアが開く。黒髪、黒目、やせ型中背の男。栄養状態が良くないのか体はやせ細り、髪に艶はない。


「あんたがアルフレドさんか? セントさんから聞いてる。ここで布教活動をしたいんだって? 物好きもいたもんだな。こっちでは好きにしていいぜ。……その活動に意味があるのかは分からないがな」


「意味があるか分からない? どういうことだ?」


「言葉通りだ。あんたもすぐに分かる」


 男は覇気のない笑みをうかべるとそのまま部屋に戻ろうとする。アルフレドは閉まる扉を掴むと部屋の中に入ろうとするナグモを呼び止める。


「一つだけ聞きたい。あんたはセントさんから私がここに来るのをいつ聞いたんだ?」


「変な事を聞くな? 雨が降ってきからだから、昨日だな」


「そうですか。忙しいところ悪かったですね。また来ます」


「また? まぁいい。せいぜい頑張れよ」


(昨日聞いたという事であれば、契約後に指示を出したことになる。ナグモが嘘をついていなければ小細工なしで私に指示を出しているということか? あるいは別の者からセントの名を使って依頼されたのか……)

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