第15話 行動開始

 深夜。四人は行動を始める。四人と言っても戦闘能力を持たないアルフレドとマリアナは戦闘には直接参加しない、戦闘に関しては素人なので、その辺は二人とも立場を弁えている。


 しかし、人手不足は深刻で、二人が参加しなくては作戦が進まない。二人とも参加せざるを得ないのだ。警戒に当たる兵の始末をグルに任せ、モアは砦の正面近くに待機。アルフレドとマリアナは砦の背後に待機していた。


「よし、これで全て塗り終えたぞ。時間は五分ほどで良いんだよな」


 待機した砦の後方では二人が扉に何かを細工している。鉄の扉は化学反応が起きているのか、ブツブツと激しく泡を上げ、薬品と金属が激しく反応している。


「そう、五分! 扉は分厚い鉄をベースにした合金。この反応を見る限りは五分以内に溶接は終わるよ」


 口角を少しだけ上げ、マリアナが応える。いつものように目が笑っていないせいか、暗闇の中のマリアナはより一層不気味に見える。


 砦の全長は三百メートル。砦にしては小さめのサイズだ。通常であれば砦柵や土塁、塹壕などが設けられ歩哨も立つのだろうが、イスガン一味は寝床として使っているだけである。また、兵の練度も城の鍛えられた兵などに比べてかなり緩いようで、警戒役の兵士は一人しかいない。


 マリアナは自分に与えられた溶接作業を終えると、アルフレドの肩に摺り寄る。体温が肩越しに伝わってくると、鼻に金属のような薬品の臭いが漂ってくる。マリアナは声を潜めながらも興奮しており、アルフレドが求めてもいないのにこの砦について説明を始めてしまう。


「この砦は凄いよ! サンシロバイやタチアナで作られた物ではない。立てられて数百年は経っているにもかかわらず風化や劣化が極端に少ない。そしてこの気密性。イスガンは狙ってここを住処にしたのではないでしょうけど、この砦なら冬の寒さを越すことも楽勝よ。でも、それがあだになるとは考えてもいなかったでしょうね! そもそも、この技術は魔族によく見られる技術で――」


「わっ、分かった。話は後で聞く。今、グルから合図があった、私たちも移動する」


 この砦にはどうやら人の技術では無い技術、あるいはロストテクノロジーが使われているらしい。この砦が解放された暁にはマリアナがここを探索をするという約束をさせられてしまう。もちろん、アルフレドにそのような権利はない。しかし、マリアナがこの約束で気持ちよく仕事をしてくれるというのであればアルフレドは返事をせざるえない。


 砦の西側、正面から見て左側に到着する。


 グルはすでに到着しており、マリアナとアルフレドが遅れて合流する。グルは虚ろな目をしながらアルフレドに見張り役の男の生首を渡そうとしてくる。殺した確認をさせたいのだろう。


 アルフレドはやや顔を背けながら生首を確認する。首は渦を巻きながらねじ切られており、こめかみの辺りを力いっぱい押し付けたのか両目は飛び出ている。グルの丸太のような腕で、ねじ切きったのを想像して身震いする。


(場合によっては私がこうなったかもしれないんだよな。しかし、この生首を見ると見張りの死体は使い物にはならない。砦の死体は綺麗に回収しなくては)


 更に移動を繰り返す。砦を正面から見て右側、方角でいえば東側に着く。ここには砦の通風孔がある。大きさはマリアナがギリギリ侵入できる程度の大きさであり、砦に侵入するとすれば、正面入り口や裏手口を除けばここからになる。


 通風孔は砦のメインの部屋に繋がっており、メインの部屋に直接侵入する際は戦闘能力が優れ、且つ、何らかの対策が必要である。


 しかし、今回はこの通風孔より侵入はしない、通風孔の前には枯れ木や落ち葉が山のように積み上げられており、三人の手にはマリアナお手製の長持続型発煙筒がある。グルが道具袋から火付け石を取り出し、枯葉に火をつけると、種火は白い煙を出しながら瞬く間に火の勢いを増し、白い煙はすぐに通風孔に向かって勢いよく流れ込む。


 さらに、三人は燃えあがった火で発煙筒を発火させる。激しく煙を噴出する発煙筒を確認すると、三人は勢いよく通風孔に投げ込む。三人が投げた発煙筒の煙は、落ち葉や枯れから発せられる煙と合わさり、凄まじい速度で煙の勢いを増してゆく。もし、この煙の中に人がいれば一瞬で視界を奪われてしまうであろう。


「ここまでは順調か。後はモアが期待通り動いてくれれば」


 通風孔からは夥しい煙。アルフレドの身長を超えるほど大きくなった炎は砦の西側を怪しく照らす。静寂で包まれるはずの森の中にこれから惨状が起きようとしていた。


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