第16話 日本の再出発

西暦1947(昭和22)年5月3日 日本国東京都


 この日、日本は再出発の時を迎えていた。理由はこれまでの大日本帝国憲法に代わる、新たな憲法が制定されたからである。


 当初、連合国は日本国を完全に非武装化し、経済的な植民地にして隷属化させようと試みていたという。だが、サクソニア共和国という西太平洋を占領した未知の大国が、その計画を大きく狂わせた。


 当然ながら新たな憲法の制定に大きな影響をもたらし、政府は多くから意見を求めた。そうして去年の11月に概要の公布が成され、そしてこの日に法典としての機能が発揮されるに至っていた。


 先ず前提として政治は国民主権とし、イギリスを模範とした完全な立憲君主制へと移行。一先ずはアメリカが納得する形での変革を成した。次いで基本的人権の尊重が宣言され、それは特別高等警察の解体を以て行動で示した。


 最後に軍事力であるが、こちらは制式に国軍が自国領土の防衛を主目的とした組織として明記され、さらに基本的には内閣総理大臣が最高司令官として統制すると制定された。南に3000キロの地点に、国家の存続を脅かす大国がある上に、北ではソビエト連邦が南樺太と千島列島を不法占領している状況下、非武装による平和化は余りにも都合がよすぎると十分に理解した内容であった。


 そして東京では、主にアメリカからの膨大な物資による再建が進められていた。日本政府は東京湾という広大なエリアを連合軍に駐留拠点として提供する事で、それと引き換えに膨大な物理的支援を得ていた。


 そうして再建が進められる街並みには大きな特徴があった。それは、いわゆる鉄筋コンクリートやら石材で建てられた家もそれなりに増えてきているという事であった。


 何せアメリカが持っているのと同等の性能を有した重爆撃機が、広島や長崎を破壊した特殊爆弾を抱えて飛んでくる可能性が出てきたのだ。先の大空襲に対するトラウマが発動した結果だろう。


 ともかく、こうして日本は新たな一歩を踏み出す事となった。

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第二次太平洋戦争 瀬名晴敏 @hm80

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