第6話 パットン襲来

西暦1945(昭和20)年11月18日 日本国静岡県裾野 陸軍東富士演習場


 この日、その場には怒号が響き渡っていた。


「貴様ら、初動が遅いぞ!そんなへなちょこな機動で何とかなるとでも思ってるのか、バカ者!」


 ジョージ・パットン陸軍大将はジープの荷台よりメガホンで怒鳴り、広大な平野を走る装甲車両群を睨む。目前を疾走するのは祖国アメリカの開発したM4A3〈シャーマン〉中戦車であり、それを数両のM24〈チャーフィー〉軽戦車が追随する。


 サクソニア共和国という未知の敵国がフィリピン東部に侵攻してきた時、現地の米軍及びフィリピン軍は相手の軍事力に対して劣勢を余儀なくされた。この当時の米陸軍の主力戦車はM4〈シャーマン〉中戦車であったが、敵の主力戦車は〈シャーマン〉の車体は愚か砲塔すら貫通する程の高威力の火砲を備え、同時に76ミリ徹甲弾では威力不足となる程の堅牢な装甲を有していた。


 さらに、マリアナとグアムを巡る戦闘にて、これら強力な主力戦車を上陸用舟艇で大々的に投入してきた事もあり、米軍上層部はもし日本へも攻めてきた場合、日本陸軍の既存兵力では太刀打ちできないだろうとも目されていた。


 よって、米陸軍における戦車戦のプロフェッショナルであるパットンをリーダーとした軍事顧問チームが日本へ派遣される事となった。同時に装備も多数供与される事となり、直ちに歩兵第1師団隷下の戦車連隊と偵察中隊、そして戦車第1師団にて配備。パットンの監督下での猛訓練が開始されたのである。


 とその時、パットンにとって聞き慣れぬエンジン音が聞こえてくる。その方向に目を向けると、角ばった形状の戦車が群れを成して進んでいるのが見えた。パットンは首を傾げる。


「アレは何だ?」


「はっ…あれは元々日本陸軍にて生産されていた戦車であります。うち本土決戦用に温存されていたものかつ、ある程度改良が可能なものを整備して、新たに編成された水陸機動師団に配備されたそうです」


 幕僚の言葉に、パットンは「フム…」と唸る。連合軍の進駐後、装備の多くは解析用に接収されていたが、全てがそうなったわけではない。特に今、パットン達の面前で走るのは、元々戦車第1師団に配備されていた三式中戦車〈チヌ〉であり、性能としては〈シャーマン〉の初期生産型程度である。だが連合軍進駐後はある程度の改修を施し、主砲をアメリカ製の76ミリ砲にするなどの強化を行っていた。


「ともあれ、サクソニアの連中は直ぐには手を出しては来ないだろう。問題なのはフィリピンの方だが…」


「ですので、最新型の〈イージーエイト〉とか後期生産型はフィリピンに優先的に配備されています。そして本土では〈パーシング〉の量産が進められており、一部は日本に供与する方針となっています」


「全く、陸軍管理本部AGFの間抜けどもの失態がここまで引きずる事になるとはな…ともかく、急いでこのモンキー共を立派なゴリラに仕立て上げないといかん」


 パットンはそう言いながら、戦車部隊の行進を見つめた。

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