第1廻「小鳥遊りなの相談~相談支援長、氷雨輪廻との出会い」

 ※第1廻は読み切り版と同じです。

 

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 セミロングの髪、黒い瞳。小柄でやせ型の体型のブレザーを着た。

 可愛い感じの高校二年の少女。小鳥遊たかなしりなは、高校でいじめを受けて悩んでいた。


 その上、父親のラーメン屋の借金を返す、手伝いをするために喫茶店でバイトをしていた。

 オレンジ色の夕日に照らされたバイトの帰り道、家に帰る足取りも重い。


 りなが悩みながら、歩いていると。

「お嬢さん。大丈夫ですか?」一人の少女に呼び止められる。


 りなが、振り向くとそこには、黒髪のロングヘアで蒼と茶色の両目で色の違う

 オッドアイの瞳をした。朝顔の絵柄が入った、薄ピンクの着物姿の可憐な美少女が、立っていた。

 年齢は、りなと近いようにみえるが。おとなしめで随分と落ち着いている。

「何か用ですか?」

 りなは、警戒して怪訝そうに少女を見る。


 その様子に少女は、少し困ったように眉を八の字にしながらも、名刺を渡しながら自己紹介をした。


「すみません。先にご挨拶をするべきでしたね。

 私は、“氷雨輪廻ひさめりんね相談所”と言う相談所の支援相談員で。

 猫嶋椿ねこじまつばきと申します。お嬢さんが、何か悩んでいるようにみえたのでつい、声を掛けてしまいました。当相談所は、お悩みをお聴きして解決する相談所なのです。ご興味がありましたら、これからお立ち寄りくださいませんか?」

 と椿は、りなにそう言った。


「――私は、小鳥遊たかなしりなと言います。悩みを聴いて解決する相談所……?カウンセラーみたいなものですか?」

 りなは、いかがわしいと思いながらも、一日も早く救われたいと思う気持ちが強く。

 椿の言葉を素直に受け、行くだけでも行って見たいと思うほど、椿の言葉と雰囲気はそうさせる魅力があった。


「そうですね。カウンセラーのようなものです。まあ、私に付いて来てくだされば分かりますよ。

 相談支援長をご紹介致しますので、どうぞ、付いてきてください。」

 椿は、にこりと微笑むとすっと、路地裏の道に入った。


 椿はどんどん、道を進んで行く。進んで行くうちにカラスの数が、増えているように感じた。しばらく行くと開けた場所に一軒のひなびた事務所が建っていた。


 看板には、氷雨輪廻相談所ひさめりんねそうだんじょとある。屋根には、何羽もカラスが止まっていた。

「はいっ、こちらです。」


 椿は、相談所のドアを開けた。今どき、自動ドアでないのは、めずらしい。

 と思いながらりなは、椿の後に続く。相談所の中には、アンティークな机と椅子。


 棚が並び棚には、古書や日本人形などが、飾られている。

 年季ねんきが入っていそうなのに綺麗に掃除が行き届いており、机の上には花瓶が置かれていて、サギ草が飾られていた。


 デジタルテレビやエアコンなどがなければ、戦後位の昭和時代にタイムスリップしたと言われても、信じられるほどのおもむきがあるたたずまいだ。


 椿が相談所の奥に向かって、声を掛ける。

「氷雨先生、ご相談者様ですよ。」


 部屋の奥から、黒髪の短髪に赤い瞳の青年が姿を現した。

 黒い着物を着た。17歳前後位のなかなかの美青年だ。


「うわあっ、イケメンっ」


 りなは、思わず頬を染めて見入ってしまった。

 青年は、りなに軽くおじぎをすると机の前の椅子に座り、手を組んだ。

小鳥遊たかなしりなさん、初めまして。僕は、氷雨輪廻ひさめりんね。この輪廻相談所の相談支援長をしている者です。」

 赤い瞳を細めて、にっこりと微笑みを浮かべると、りなを見つめて来た。

 その目は、なぜか、心の奥まで見透かすような光を持っているように感じた。


「えっ?私。名前をまだ、言ってないのに……。」

 りなが驚いていると、輪廻はまた、目を細め笑い。

「僕は、心理学の読心術どくしんじゅつをたしなんでおります。お辛いなら、話さなくても結構です。僕が、読んでも良いなら。さあ、椅子に座って貴女の目を見せてください」

「はい。話すのはちょっと、辛いです。でも、読んで貰えるなら……よろしくお願いします。」


 椿が、りなに椅子を勧めると、彼女は椅子に腰かけ、輪廻と向き合った。

「うん……。心根の清い良い眼をしている。だが、その奥底には悲しみや怒り、葛藤が渦巻いているな。」


 輪廻は、さらにりなの奥底を読む。

「学校でのいじめ。それに、お父様の借金返済の手伝いか。お母様は、既に亡くなられていると。これは、お辛かったですね……」

 輪廻は、優しい表情でりなを見る。

 りなは、輪廻の穏やかな印象と言葉で、うるうると瞳を潤ませた。


「そうなんです。本当に辛いんですよ。でも、話したからって解決出来る物でもないので。それを解決出来るって。どうするの?氷雨さん」

「一晩、考えさせていただけませんか。悪いようにはいたしませんよ」

 輪廻は、りなの前まで歩いて来て、彼女の手を取り勇気づけた。

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