第45話 尾行作戦

(森文視点) 


 私って軽い女なのかな……。

 ショッピングモールに向かう裕也くん達を追いかけながら、私は自己嫌悪に陥っていた。

 「似合ってる」って言われただけでドキッとするなんて。

 彼氏っていうのは依存対象っていう話もよく聞くし、誰でもいいから依存先を求めてた……とか。


 ええ、もう頭こんがらがってきたよぉ……。



「大丈夫か?」


「え、あ、うん! ちょっと考え事してただけだから……」


「……やっぱりやめる?」


「え?」



 大野くんが足を止め、心配そうな表情で見てくる。

 一体何をやめるのか。……そんなの決まってる。



「……尾行?」


「うん、森さん、辛そうだから」


「あ……」



 それは違うの、という意味で呟いた「あ」を、大野くんは肯定の意味で受け取ったみたい。

 いや、「あ」で私の意図を汲み取れるわけないか。



「裕也が柚と仲良くするとこ見るとか、自分から傷つきに行くようなもんだもんな。ごめん!やっぱ――」


「やだ!」



 気づけば、子どものように叫んでいた。必死だった。

 大野くんがちょっと驚いた顔をする。



「お願い……一緒に来て……」



 なんでここまで必死になっているのか分かった気がする。


 依存先じゃなくて、共犯者を求めているだけだ。


 一人で傷つきにいく覚悟が無い私は、いつもみんなが賛成する方に賛成してた。

 今だってそう。大野くんという、同じ傷をもっている人とじゃないと、尾行なんてする勇気もないし、考えもしなかった。

 大野くんの袖を掴む手が震える。ここまで必死になって、引かれちゃったかな……。


 自信を失いかけたその時、温かい声が降ってきた。



「わかった。じゃあ、一緒に行こう」



 そう言って白い歯を見せて笑う大野くんを、絶対に忘れない。



「あれ!? 裕也くん達どこ行っちゃった!?」


「やべえ! 走るぞ、!」



 私の腕を掴み、初めて名前を呼んでくれた。

 そのことにまた心臓が跳ねて、だけど、自己嫌悪には陥らなかった。

 これは恋じゃないって分かってるし、それに――

 

 大野くんなら、きっと受け入れてくれると思ったから。


―――――


 なんとか追いついて、二人で――大野くんは全然だったけど――息切れしている時に、私はハッとした。

 しまった! 私の格好を褒めてくれたのに、大野くんの格好を褒めてない!

 普通に似合いすぎてて忘れてた!



「お、大野、くん!」


「どうした?」


「今日の服、大野くんも似合ってる、からっ……!」



 私がいきなりそんなことを言ったから、大野くんはぽかんとして……



「なにそれ……急、すぎないっ……?」



 お腹を抱えて笑い出した。

 意外にも、ツボにはまったら声は出さずに笑っちゃうタイプみたい。

 それからも二人で雑談しながら、尾行するのだった。


 ……こんなに喋ってるのに、なんでバレないんだろう。二人共鈍感すぎない?(※緊張して周りを見渡せてなかっただけです)


―――――


 少しして、二人が手芸屋さんに入ったのが見えた。

 仲良く布を選んでいる様子が見えて、少し胸が痛む。大野くんも、黙り込んでしまった。

 見ていると白い布の種類が多すぎて、はちまきに合う白い布を二人で手分けして探すことにしたようだった。


「裕也くん追いかけてくる」


「えっ? お、おい!」



 松永さんと仲良くしているところを見るたびに積もっていた劣等感、嫉妬が爆発して、私は後先考えず曲がり角を曲がった裕也くんの後を追いかけた。


 そしたら、まさかの裕也くんが引き戻してきて、避けることが出来なかった私と正面衝突!



「おわっすみません」


「っ……!」



 バレる! 

 それしか考えられなかった私は、裕也くんに謝りもせず駆け出した。

 後ろから、「ゆうちゃーん、あったよー!」「あ、ああ」という会話が聞こえて、涙が零れそうになる。


 だめ。高校生にもなって、こんな事で泣くなんて。


 私が必死に涙をこらえようとして――だけど、溢れ出してしまったその時。



「森さん!!」



 耳に馴染んできた声が聞こえ、私の手首を掴んだかと思うと、人気のないところに引っ張ってくれた。

 顔を上げると、そこには予想通りの人物がいた。



「大野く――」



 言い終える前に、大野くんがギュッと抱きしめてきた。

 私は突然のことに驚いて、声が出ない。


 えっ……!? どういう状況!?


 びっくりしすぎて涙止まっちゃったよ!? 

 あ、でも……あったかくて安心する……。


 って、私はこんな軽い女じゃない!! ……はず!



「急にこんなことしてごめん。俺じゃなくて裕也の方がいいよな」


「あ、えっと……」



 どう反応するのが正解なんだろう……。



「俺、失恋してるって分かってたはずなのに。いざ見せられると……」



 大野くんの声が、だんだん弱々しくなっていく。

 いつも元気な大野くんでも、こんな一面があったんだ。


 私はそっと離れると、大野くんの顔を見上げて



「私もだよ」



 と言った。



「私も、すごく辛くてさ。絶対叶わない恋だって思っても、恋しちゃうの」


「うん」


「でも、どこかに希望があると信じてた。今回で、はっきりしたけどね……」


「……うん」



 大野くんが、「すごく分かる」という顔をする。

 私は小さく息を吸うと、ある提案をした。



「だから、私と大野くんで同盟を組もうよ」


「同盟?」



 いきなり違う話になって、大野くんが少し混乱した。

 私はさっきまで泣いていたのが嘘のように、ごく自然に笑って言った。



「“失恋同盟”」


△▼△▼


〜裏話〜

 文は博多弁が変だと思われないよう、日頃から標準語を使っていますが、不器用なので家と外で使い分ける事ができず、家でも標準語になっているのを碧は少し不満に思っています。

 しかし感情がコントロールできなくなると博多弁になります。


 今回、少し暗い(?)話になってしまい申し訳ないです。

 ところで、右上の「公開」ボタンが「公開に進む」ボタンになっているのはなんなんでしょう?

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