第2話

 僕たちは、塾アルバイトのメンバー四人でボドゲカフェに行った。


 三時間パックで入り、様々なゲームをした。初めてのゲームでも店員さんが丁寧に教えてくれたのもあって、すぐゲームを楽しめた。四人それぞれで戦ったり、二対二で戦った。


 彼女と同じチームになった時は、ハイタッチしたり、お互いたたき合ったり少しドキドキした。けど逆に彼女と彼が同じチームになった時もボディタッチしている姿を見て少しだけ胸がモヤモヤした。


 外出が制限された緊急事態宣言から九ヵ月、久々に人と集まって遊んだのはとても楽しく、特別な思い出になった。


 それから、お店を出てどうするか話し合った。チーフの子は彼氏とご飯の予定があるらしく駅の方に消えていった。残りの三人で話し合った結果、このまま解散するのもあれだったので三人でご飯を食べることになった。


 ご飯は駅近くのイタリアンに決まった。


 彼と彼女は人見知りの為、初めは僕がよく二人に話を振っていた。話をどんどんふっていく度、二人が同じ趣味があることが分かった。それから二人はその話で盛り上がっていた。少しだけ、疎外感を感じたが二人が仲良くなってくれて嬉しかった。


 ご飯を食べ、駅に向かった。僕と彼は帰りの方向が一緒だった為、彼女を二人で見送った後、彼と帰った。


 帰り道の電車で彼は唐突に口を開き喋った。――僕は嫌な予感がした。



「彼女めちゃくちゃ可愛いね。」

「そうだね」

「趣味も合うなんて奇跡じゃない?狙っちゃおうかな」

 そんなことを話していると彼が下りる駅についた。


「じゃ、俺はここだから」

 彼はそう言い、浮かれた様子で帰っていた。

 電車で一人になった僕は、席に座りぼーっと電車内の広告に目を向けていた。



 携帯に連絡が来た音がした。彼女からの連絡だった。

「今日はありがとうございました。私、今日変じゃなかったですか」

「変じゃなかったよ。いつも通り可愛かったよ」

「もう適当なこと言わないでください」

 本気で褒めてるのに適当にいってるでしょって流される。いつもの会話だ。


「家に着いたら電話しましょ」

 嬉しい誘いだった。家に帰ってすぐ僕は彼女に電話をした。


 その日の彼女との電話は、彼についての質問ばかりだった。

 どんな人なのかとか。私のこと何か言ってたかとか。付き合っている人はいるかとか。


 こういうことを言われて気づかないほど僕は鈍感ではなかった。――あ~あ、なんで僕ではないんだろう。


 元気良く話す彼女に少しだけ、ほんの少しだけ嫌気がさした。電話する気分ではなくなったから、お風呂を理由に電話を切ろうとして時、彼女が提案してきた。

「そう言えば、冬期講習のシフト決めました?合わせましょうよ」

 僕はその一言で機嫌が治った。我ながらちょろいと思う。


「冬期講習期間は、バイトが終わったらカフェで話しましょうね」

 彼女はそう言い、機嫌良さそうに通話を終えた。



 約束した通り、冬期講習の終わりに、よく彼女と話をした。


 最近あった面白い近所のおじさんの話から最近悩んでいる人間関係の話まで、軽い話から重い話まで話し合っていた。何時間いようと何日いようと彼女は様々な話題を喋っていたから飽きなんてこなかった。なんなら、毎日彼女と話せる日を楽しみにいていた。


 そうしているといつの間にか上京して四度目の年を越した。

四度目の年越しはなんだか去年家族がいなかった寂しさがあったので実家に帰った。久ぶちに地元の友達と合い、遊ぶのはすごく楽しかった。初日の出も見たし、初詣もいったし、屋台も堪能した。

  

 どこにいっても行列を成している都会と違い、人が少ない地元はすごく心が落ち着いた。地元で就職するのは正直苦渋の決断だったが、なんだかんだ田舎が自分の性格にあってるかも知れない。


 夜ごはんまで友人と遊び、家でゆっくりリビングで過ごしていると電話が来た。


「いつこっちに帰ってくるんですか?」

「なに寂しいの?」

「寂しいです。早く帰ってきてください」

 彼女からの電話だった。揶揄うように言ったセリフも素直な返事で返され可愛いなと思った。


 それから深夜まで電話が続いた。久しぶりに話すもんだから会話は尽きなかった。

「先輩と話していると時間があっという間に過ぎますね。もうこんな時間なのでおやすみしましょ」

「そうだね。おやすみ」

「はい、おやすみなさーい」

「なんでまだ切ってないんですか」

「そっちこそ切ってないじゃん」

 なんかカップルみたいなやり取りで気恥ずかしかった。


「そう言えば、先輩から電話きることないですよね」

「自分から電話は切らない主義なの」

「なんですかそれ」

「切られる側って寂しいじゃん」

「先輩ってそういうとこありますよね」

「何悪口?」

「そういうのじゃないですよ。こんどこそ切りますね。おやすみなさい」

「いい夢見なよ」

 いつもみたいな電話だったけど、通話が終わった後はいつもより寂しかった。


 東京での電話は次の日にでもすぐ会えるけど、地元に帰ってしまうと簡単に会うことはできないんだなって何となく思った。


 その日は、布団を強く握りながら寝た。


 結局僕は、一か月くらい地元に居た。その間は、地元の友達と遊んだり、家族とまったり過ごしたり、彼女と電話したり、チーフの子と電話したりして過ごした。


 東京に戻った時は、もう二月だった。戻ってから最初に会ったのは当たり前の様に彼女だった。

 彼女は僕の顔を見ながら話した。

「もうすぐバレンタインですよ。私からのチョコ欲しいですか?」

 揶揄うようにニヤケながら聞く彼女は可愛かった。やっぱり好きだなって思いながら雑に返事した。


「あ~、めっちゃ欲しいわ」

「なんで棒読みなんですか。私からのチョコってレアですよ。レア」

「ありがたき幸せ」

「まぁ、手作りなんて作れないんで適当なお菓子あげます」

「手作り期待したのになー」

 なんとなくこの関係がずっと続けばいいなとさえ思っていた。そう感じるくらい 彼女の隣は居心地が良かった。

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