第27話 旅立ち
翌日、エンゼル・エンパイアを出発予定の御伽の夜光団は最後にレラに挨拶することに。王宮へ行くと早速レラやその従者、七つの属性の精霊が待ってくれていた。皆見送りに来てくれたのだ。
「御伽の夜光団の皆様、今日まで我が国に来てくださりありがとうございました。行ってしまうのはとても寂しいのですが、私達の方でお見送りさせていただきたいのです」
「こちらこそ受け入れてくださりありがとうございました!私、レラ女王様にまた会えて嬉しくて…またこちらへ来てもいいですか?」
「もちろんです!いつでも歓迎しますよ」
夜桜は憧れの存在であるレラと会えたことに感謝しており、再びエンゼル・エンパイアへ訪れたいという気持ちを本人に伝える。するとレラは夜桜にゆっくりと近づき、手を差し伸べる。彼女も同じく手を出して、二人は固い握手を交わす。とても暖かい手だ。憧れの人と握手することができた夜桜は、声が出ないくらいの嬉しさが込み上げてくる。
「ふふ、新しい団長さんの活躍を楽しみにしています」
「は…はい、ありがとうございます!!」
レラは夜桜の頭を優しく撫でてふふっと笑う。夜桜は照れた表情でもじもじしていた。
と、レラの横からレーチェルがひょこっと顔を出す。
「…お話し中悪いわね。その…薔薇、見つけてくれてありがとうね。お礼まだ言えなかったら…」
「いいのよ」
レーチェルは桃色の薔薇を探して見つけてくれたお礼を少し恥ずかしそうに言った。
「まだ言いたいことある奴はいるか?」
「あ!俺…いいですか?
ここの団員になって冒険を始めて一番最初に来た国がエンゼル・エンパイアなんです。まさか空に国があるなんて…しかもこんなに綺麗なところ見たことがなくて……本当にすごい国ですねここは!」
少し時間に余裕があるので、ジョージィが団員達にレラや他の人に言っておきたいことがあるか聞いてみると、ライが真っ先に声を上げた。彼は始まったばかりの冒険で唯一雲の上にある国であるエンゼル・エンパイアに来ることができた喜びを強く感じていた。
「他にもこんな素敵な場所がたくさんあるなんて…楽しみでしょうがないですよ!」
ライは目を輝かせながら、次の冒険に行く意欲を示す。
「でも、次行くところはもう決まってるんだよね!ウチの出身地ホールスウィーツタウンだよ!」
「おいおい、言うのが早いぞ?」
「待ちきれなくて……」
早く言いたい気持ちが先走り、ジョージィが言う前についついしまうミミ。御伽の夜光団が次に行く国はホールスウィーツタウン。名前に書いてあるように、お菓子の町なのだろうか…
いつもみたいに賑やかになる彼らにくすくすと笑うレラとその従者達。
「賑やかな方達ですね、前の皆様を思い出します」
「ところで女王様、クララ王女様はどうしたのですか?」
「うーん、こそこそ何かしていたのは見ていたのですが…それ以降姿が見えませんねぇ」
ユミリカがレラにクララのことについて尋ねた。どうやら彼女は部屋で何か準備をしているような感じではあったが、もうすぐ御伽の夜光団が出発する時間になっても現れなかった。
「何かをしていた…?クララは他にやることでもあったんですか?」
ずっとクララのことが心配だったカヨが彼女の動向を伺う。しかし具体的なことはレラにすら分からない。
「もうすぐ皆様が出発するというのに、何をしているのでしょうか?」
「…まさか…!」
___
そしていよいよエンゼル・エンパイアを出発する直前になり、飛行船を出しているジョージィ。すると彼のところにガブリエルが訪ねてきた。
「…急にすみません」
「何か?」
「かつてここにいた私の息子のこと、よろしくお願いします…私の言いたかったことはそれだけです」
「……そうか」
実はライが加入する前に、ガブリエルの息子が御伽の夜光団に所属していたのだ。どういうわけか今は彼の姿はない。事情を察したジョージィは一言だけ言った。ガブリエルは顔を俯ける。去っていく彼の後ろ姿をただ無言で見ていることしかできなかった。
出発する準備が出来、長く滞在していたエンゼル・エンパイアから離れる御伽の夜光団。飛行船に乗る前にライは後ろを振り返る。七つの属性の精霊が手を振っていたが、シャドウは最後まで見送りに来ることはなかった。
(ああ…やっぱり来なかったなあ…)
「ほら、何してるの?もう行かないと」
彼のことが気になっていたライに早く乗る促すローラ。
「皆様、お元気で!」
レラが大きな声を出して団員達に呼びかけてきた。そして飛行船は少しずつ上昇していく。飛び立とうとした瞬間、
すると………
「…待ってくださいっ!!」
飛行船の方に向かって叫びドレスの裾を持ち走ってきたのはなんとクララだった。彼女は金髪縦巻きロールヘアーに白を基調としたパステルカラーのドレス、天使の羽の髪飾りと衣装を変えている。気づいたジョージィがすぐに飛行船を降ろす。
「クララ!?」
「はぁ、はぁ……間に合いました…」
クララはハァハァと息切れしながらも御伽の夜光団が出て行く前に間に合うことができた。部屋に隠れて彼女は何をしていたのか。
「どうしたのですか、朝から何かやっていましたが」
「あの…いきなりで申し訳ありませんが、
えっと……わ…
あの……私も一緒に連れて行ってください!」
「!?」
彼女の口から出た言葉は、まさかの御伽の夜光団の旅に自分も連れて行ってほしいということだった。この発言に全員驚いて声を上げる。しかしどうしてそのようなことを決断したのだろうか…クララはその経緯を声を震わせて話す。
「今までずっと悩んでいました…確かに私にはまだ次期女王になる覚悟はありません。実力も全くありません。それは私が何も知らないから……あなた達と出会って話して、そしてあの戦いを見て…色々考えたんです。私もたくさんのものを見て学びたいです!
こんな私でも良ければあなた達の新しいメンバーに入れていただけないでしょうか…?」
かつてずっと自分の背中に隠れておどおどしていた娘の決意にレラは…
「…私の方からもお願いしたいです。彼女にたくさんのことを経験させてあげてください。ジョージィさん、ご検討のほどよろしくお願いいたします」
「良いんじゃない?魔法の修行ってことで」
レラは深々と頭を下げる。それにレーチェルも賛成していた。ジョージィの答えは…
「…よし、わかりました。新しい団員ももう少し増やしたいと思っていたところだし」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「わ〜〜〜、ついに王女様がこの国を出てしまうんですね〜!」
「ちょっとユミリカ…離れてくれない?」
ジョージィはクララを御伽の夜光団の新しい団員として迎え入れることを認めた。ついにエンゼル・エンパイアを出るということにユミリカはレーチェルの腕に抱きつき大号泣した。
「でも、一つだけお願いがあります」
ここでレラがクララにあるお願いをする。それは彼女自身の身を案ずる内容であった。
「この国の王女であることは他の方に知られないように活動中は偽名にしてください。これはあなたの身を守る為です。名前については…そうですね。
愛と美の女神ヴィーナスから、ビナスという名前はどうでしょう?」
「ビナス…素敵です。わかりました、お母様!」
御伽の夜光団の団員として活動する時はクララではなくビナスという名を使うことになった。ここからはクララ改めビナスとして旅に出る。カヨがビナスとして活動することとなった彼女の手を繋ぐ。
「一緒に来てくれてありがとう、私もすごく嬉しいな。改めてこれからよろしく、クララ…いやビナス!」
「カヨさん…はい!こちらこそ!!」
そしてビナスも一緒に飛行船に乗る。娘の旅立ちにレラはスカイブルーのアクセサリーが輝くネックレスを彼女に送る。
「…いってらっしゃい」
「お母様、いってきます!」
ビナスは涙を浮かべ、御伽の夜光団と共に国を出発した。
第二章へ続く___
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