文例2『お飲み物はいかがなさいますか?』 (語り手は観察者)

「おっと、今日は当たりだ!」

「え、何だって?」

 あなたは訊き返す。連れの高校生が言った「当たりだ」の意味があなたにはわからない。

 夕刻のクイーンズサンド。ここには授業を受ける前の千代田ゼミナールの生徒たちが毎日やって来る。あなたもその一人だ。しかし毎日来るわけではない。あなたはひさびさにやって来た。

 三つのカウンターレジには美人の女子高生バイトが立っている。

 あなたはそのいちばん左、ここでは一番レジと言われているレジに向かった。

「いらっしゃいませ、こんにちは。店内でお召し上がりですか?」

「はい」とあなたは答える。

「では、ご注文をどうぞ」

「ヒューストンバーガーのセットで」

「お飲み物はいかがなさいますか?」

 あなたはよどみなくオーダーをする。しかしドリンクについてはまだ迷っている。

 少しの間考えるあなたの前にメニューが差し出され、コーラの文字の上で女子高生店員の人差し指が可愛くトントンと踊った。

 あなたは驚きの顔を見せる。その先には可愛い女子高生バイトの笑顔があるはずだ。

 あなたはわずかに頬を染め、「これで」と同意する。

「承知しました。お会計は六百円です」

 あなたは落ち着かぬ様子でオーダーが揃うのを待つ。そしてオーダーは揃った。

「お待たせしました。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」

 トレイを受け取ってテーブルに向かうあなたの背中が眩しく輝く。

 席について食べ始めたあなたと連れ。

「だよねー」という声を連れがあげる。

 あなたは「ん?」と首をかしげる。

 あなたのキョトンとした顔は愛らしい。

 あなたは本当においしそうにバーガーを頬張った。



*************************************


 ここではわかりにくいが、語り手は一番レジにいた高校生バイトだとあなたは理解する。


 ひそかに思いを寄せる男子高校生が目の前にやって来た女子店員の視点で物語は語られる。


 語り手が登場人物のひとりであるパターンであるとあなたは理解した。

 観察者型、傍観者型、ストーカー型といったものがこの類であるとあなたは勉強する。


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