第一章:快適な拠点作り〜お昼ご飯〜

「ただいまぁ」


 家ことセーフエリアに戻って来たら既に姉と兄も戻ってきていた。


「お帰り」

「あら、あんたも出てたの?」


 装備を外しながら話してくる姉と兄に「ちょっと木材取りに行ってた」と軽く答える。


「木材? トレントの森?」


 姉の意外そうな声に「ん~」と生返事する。


「大丈夫だったの? トレントって結構面倒くさいでしょ?」


「大丈夫、トレント狩りは高校の時何度もやってたし」


 心配そうな声に無傷だったと笑えば、兄が意外そうな声をあげた。


「トレントを一人で狩れるって中々やるなぁ。しかも殆ど何も装備してないじゃないか」


「俺は速度重視だから装備はあんまり好きじゃないんだよ。軽装でも結構重いし」


 俺は鉄線を駆使しつつ短剣でサクッとやるタイプなので似たような動きをする人が着る皮装備も負担に思う人間だ。本当は着た方が良いんだけど、このスタイルに慣れちゃうとどうしても重荷になってしまう。


「えぇ? せめて皮装備くらいは着なさいよ。毒持ちがいたらどうするのよ」


「んー、まぁ攻撃されても良ければ良いだけだし。それに皮装備だったらトレントの攻撃を完全に防げないから意味ないと思う」


「だからって装備無しは極端すぎだろ」


 皮装備は上層のモンスター相手なら十分効果を発揮するが、中層・下層となると完全に防ぐことは難しい。下層に潜る用の皮装備ともなると値段が跳ね上がるのだ。装備を作る職人は数が少ない。それなのに需要はあるからもう、値段が吊り上がるのは仕方ない。仕方ないが。


「だって皮装備1つで数千万だろ? それに日々のメンテも面倒くさそうだし。それなら装備無しで動き回ったほうが良いよ。お財布にも優しいし」


 軽い怪我はポーションで直るし、重症でもハイポーションがあれば即座に動けるようにはなる。それに比べて装備は壊れたらメンテに倍以上も掛かるし、そうじゃなくたって日々のメンテにも金が掛かる。即死は免れるとはいえ、ちゃんとした装備を揃えられるのは金持ちの証拠なのだ。


「まぁ俺も気持ちは分かるけどなぁ。良く潜ってた時は俺も装備って言う装備は着てなかったし。まぁあの頃はメンテも装備も人間の手では出来なかったから、完全に使い捨てだったけど」


 親父がのんびり当時の事を口にする。親父の時代にはまだまだ技術が発展してなくて大変だったと聞くし、実際そうだったんだろう。


「えぇ!? 使い捨てって、勿体なくない? 壊れても持って帰ればお金にはなるでしょ」


「いやいや、そもそもその素材を扱う技術が発展してなかったから、売る場所が無かったんだよ。一部の大企業は色々試してたみたいだけど、その素材も一部のトップランカーからしか買い取ってなかったし」


 親父の言葉に兄が「へぇぇ」と言葉を出す。確かに、今じゃスクラップになった防具類も探索者協会に引き渡せば小遣い程度にはなる。少しでも金が欲しい人間なら捨てることはないだろう。逆に金が有り余ってる探索者は捨ててるみたいだが。


「さぁさ、お話はこのくらいにして、お昼ご飯にしましょ。今日はカレーよぉ」


 雑談に花を咲かせていると母がそう言って大鍋を持ってくる。そこからはカレーのいい香りが。


「よっしゃ! 俺皿持ってくる!」


 匂いに釣られて腹の虫が鳴り出した。俺はさっさと食事をすべく、テントに向かって走り出した。

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