魔法少女、道を分かれる

ひび割れの断崖窟地下22階。

脆い砂岩で作られた洞窟だが、最下層の中心部周辺は固い花崗岩に似た硬度の高い岩壁も存在している。

紫電のエクレールの面々が休憩を入れた場所もその硬度の高い岩壁で遮られた一角なのであった。


トモとメテオラは21階に続いていた階段前に来ていた。

周辺は花崗岩に囲まれ頑丈で人工的な印象すら感じるが、階段だった場所は材質の違う砂岩が砂となり時折吹く風に砂となって流れていった。


「なんで階段だけこんな脆い材質なんだろね」


「おそらく修復しやすいからじゃろう。 おそらく元々はこの硬い石を中心にした小さなダンジョンだったのが少しずつ拡張されたんじゃろうの」


「うへぇ……。ダンジョンって勝手に広がるの?」


「年々この世界のマナは増えてきておる。 それだけ魔物が増えてしまうんじゃ。ダンジョンというのは、外の魔物が産まれるのを減らす目的で作られている部分もあるのじゃ。それだけマナが増えればそれを抑えるためにダンジョンが拡がることはままあることなのじゃ」


「へぇ……、まぁその分こんな苦労させられてるんだから堪ったもんじゃないね」


「まったくじゃ! さて、やはりここにも何も痕跡はなさそうじゃのう……」


「みたいだね。 やっぱり魔物が湧きやすい場所を探すしかなさそう?」


「マイスター。メテオラ。 ちょっとよろしいですか?」


二人の辺りをきょろきょろ見回しながらの会話に、クーリガーが割り込む。


「クーリガー何か見つけた?」


「マイスター。そこにブーツの足跡があります。おそらく階段が崩れた後、ここに人間がいたと思われます。人数は三人」


「え? 確かここ閉鎖されてたんじゃ?」


「大方跳ねっ返りの冒険者じゃろう。 抜け道を使ってわしらを出し抜いたものがおる」


「それって不味くない? 冒険者で手に負えないからメテオラが呼ばれたんだよね?」


「まぁその通りじゃな。そして勢い任せで最深部までたどり着いたが、おそらく引き返そうとして階段が崩れていたんじゃろう……。そして、階段の修復を待つまで最深部を彷徨う事を選択したってところか」


メテオラが地面に座り込みブーツの後を目線で追いながら話すと、トモは間髪入れずに、「救援しよう」と鋭い視線で告げる。


「お主はそういうか、わしはほっといてもいいと思っておるがの。好きで潜ってきた連中じゃ、命の掛けどころとむざむざ捨てに来たものを助けてやる義理はないと思うがのう……」


「それでも私は救いにいく。 その為にこの力はあるんだ」


トモの瞳は普段とは全く違う生き生きとした光を宿している。

力強い眼差しだった。


その瞳を確認したメテオラは地面へともう一度目線を向ける。

その口元は何かを言おうとして動きかけたが、終ぞ二人が動き出すまでその唇が開くことはなかった。


二人は無言のまま、足跡を辿り足早に洞窟を進んでいた。

曲がり角を右へ左へ進み、地面の後をクーリガーが注意深く確認し行き先を示していた。


(必死じゃな。なぜこの娘はここまで自己犠牲が過ぎるのか?)


メテオラは後ろから付いていきながら、トモの様子を探っていた。

その場のノリに流されやすい少女とは思っていたが、今の鬼気迫る様子にメテオラは困惑が隠せないでいた。


今迄トモが緩い雰囲気を崩したのは種の化け物と戦いの中自分を救援に来た時しか見たことはない。

しかし、この階層に潜り込んだ人間がいると解った途端、あの時と同じ表情を見せ始めたのだ。戦いにはどこか消極的を発言はしていたというのにだ。


メテオラはその変化に気付きつつも、切り込むべきか推し量れないまま保留することにしたのだった。


悶々とした気持ちを抱えたままのメテオラをよそに、件の冒険者一行に大分近づいているようだ。

花崗岩の高い壁に囲まれた十字路を何度か往復した後が見える。

そしてその十字路の脇には小さな横穴があった。

メテオラはその横穴をのぞき込みながら推察を述べる。


「休憩ポイントに向かったが、何かがあって引き返して別のポイントに移動したようじゃな」


「メテオラ。 そのようですね。 地図を見る限りここから一番近い休憩ポイントから、いちばん遠くの休憩ポイントに向かったと思われます」


メテオラの言葉にクーリガーが反応する。


そして、その言葉と共にトモは冒険者が向かった先に歩き出そうとする。

しかし、メテオラは冒険者が引き返した先に進み始めるのだ。


「ちょっとメテオラなんでそっちに!?」


「湧き潰ししてるといったじゃろう? つまり引き返すという事はおそらくそっちに化け物がいたと見るのが自然じゃ? お主は救援に向かって、そのまま待機しておれ、わしは片づけてから合流する」


「本気?」


「本気じゃ。それに道案内も見つけたしのう」


そういうと横穴の中にメテオラは左手を突っ込み勢いよく引き抜いた。

そして左手を高々と掲げる。その腕の先にはジタバタと暴れる半透明のモグラのような生き物がいた。


そのモグラは「離せ! 離せ!」と何度も叫んでいた。

その様子にメテオラは「うるさいのぅ」と呟いて手を放す。

次の瞬間モグラは地面にお尻から落ちるのであった。


「くそぅ……。これだから火龍は嫌いなのだ。雑が過ぎる……」


モグラは腰をさすりながら、野太い声で抗議を述べる。


「ふん。人間ごときに力を借りようとした精霊がなにを言っておる。助けてやるから案内せい!」


「まさかわざわざ龍が来るとは思いもよらんかったが、まぁ人間よりは頼りになるか……、ところでそこの嬢ちゃんはほっといていいのかい?」


「そっちは人間を助けに行く。そうじゃな?」


メテオラはトモと目線を合わせずさっさと話を進めていく。


「いや待ってよ――」


「待っておるんじゃぞ?トモ」


メテオラは有無を言わさない。一人で行く事を頑として引く気はないようである。

そしてトモはその行動に対してついていくとは言えずにいたのだった。

どうしても冒険者が気になるのである。そしてその逡巡の間にメテオラはトモを置いて道を逆に進み始めるのであった。





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【第3章開始】最強の魔法少女、勇者として異世界召喚でも闇堕ちしてて追放されました ~龍の背に乗って異世界でのんびり二人で旅できたらいいなぁ(願望) 羽柴 @hashiba0101

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