魔法少女、引力に引かれて

地下の光が届かぬ洞窟の奥、3メートル程の直径の穴の前にトモとメテオラはたどり着いていた。

二人の態度は対照的だ。大柄な身体楽しそうに上下に揺らしたメテオラと、今にも死にそうな顔したトモ。


「中途半端に大きなこの穴……。手足でつっぱて降りるのも無理だな……。というか絶対なんかいる」


「さっきの蝙蝠なんか比較にならんくらい面倒な魔物がうようよいるのうこれ。 相手するのは面倒じゃしまぁ行くなら自由落下してささっといくしかあるまい」


「そんなことも無げにいうことじゃないから……」


「お主も別に死にはしないじゃろうになんでそんなに嫌がるかのう?」


「重力に引かれる感覚が怖い」


「空を飛んだことぐらいあるじゃろう? 何が怖いというんじゃ」


「人間は空を飛ぶようにできてないのよ。 龍とかいうファンタジー生物みたいに空を飛ぶのが当たり前じゃないの!」


「うーむ。そんなもんかのう……。しかし、階段をちんたら行くのも嫌じゃからお主もついてきたんじゃろ?」


「それは……。そうだけど‥‥…。」


「言っとくが、壁に捕まりながらゆっくり降りるなんて嫌じゃからな? 魔物に絡まれるだけで時間が掛かるしのう。あとさっき見たいな無差別攻撃もやめるのじゃ、よく見てみろ。穴の周りが触れただけで崩れておる。相当地質が脆いぞ」


メテオラは地面触れ、岩盤を指先で摘まむと岩盤が窪み簡単に削り取ることができた。この石灰の様に脆い砂岩がひび割れの断崖窟と呼ばれる所以なのだろう。

この便利な縦穴を冒険者たちが利用しないのもこの脆い地層のせいである。

ロープ降下しようにも、ペグを刺すこともできないのだろう。

つまりこの縦穴を使うには空を飛ぶか、自由落下して無傷でいられる頑強さが必要という訳だ。


トモは地面の大穴をのぞき込む。階下から吹き上げる風が顔に当り、怖気が走る。

反射的にトモは顔を背けた。


「飛び込む前に、炎を吐いて魔物を一掃したりは?」


「足元から崩れ落ちるぞ?きっと」


メテオラはこの期に及んで愚図るトモを見もせず、冷たく言い放つ。


「マイスター。 着陸の瞬間に魔力の噴射で衝撃は相殺しますのでご安心を」


クーリガーも埒が明かないと見たのか逃げ道をすかさず潰していく。

トモはその言葉に聞こえない振りを決め込み穴の淵に座り込んでいた。

調子はずれの口笛を吹き、大地に根が生えたように動こうとしない。

その動きを目端で捉えたメテオラは無言で地面を踏み鳴らす。

その衝撃はトモがへたり込む地面の後ろをきれいに踏み抜くと、トモは「へ?」と間抜けな声を上げながら足元が崩れることを感じた。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


重力に引かれ自由落下するトモは、器用にメテオラを睨みつけ絶叫しながら大地の虚を落ちていく。

真っ暗な崖下で龍の視力でも目で追えなくなってもトモの絶叫は聞こえ続け、30秒ほどたったあと大きな爆発音と共にその絶叫は鳴りやんだのだった。

その衝撃に洞窟内はまたしても揺れ始める。メテオラがいた場所も何度も起こる衝撃に崩れ始めるの感じる。

メテオラはそのまま地面が崩れるままに任せ、大穴へと吸い込まれるように落ちていくのだった。


そして数10秒の後地面の近くで羽を出しなにごともなくメテオラは着地する。

降り立った地面は半円上に窪んでおり、トモの着地の衝撃で表層の脆い地面が砕けて砂地なっていた。トモは余程堪えたのだろう。その砂を被り地面の底で横たわっている。

眼は虚ろで、半泣きのまま虚空を見つめ、「人は鳥にはなれない」と何度も呟き、呪詛を吐いているのだった。

どうやらしばらく動き出すこともなさそうだ。メテオラは溜息をつき乱雑に小脇に抱え、先へと進むことにしたのだった。


――ひび割れの断崖窟最下層、21階。

最終フロア22階の一つ上の階層、階段まで魔物に絡まれなければ1時間も掛からず最終フロアにはたどり着けるだろう。そして魔物達が彼女たちに地下ずく気配はない。これだけ騒ぎをおこしてなお、何の反応もないのだ。

異常だ。ダンジョンの魔物というのは押し並べて好戦的なものだがここまで、息を潜めているのはやはり何かがある。

そう感じてメテオラは気合を入れなおすが、どうにも間抜けな同行者のせいで気がそこまで乗らないことに頭を抱えるのであった。




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