魔法少女、ダンジョン都市へ

白銀等級以上の冒険者、それはこの世界でも有数の冒険者として英雄への道を歩む者の通過点であった。

ワイバーンやキメラ、リッチといった討伐困難な魔物を狩ることが出来る戦力として、一定以上の指針としてギルド内でも格別の戦力として扱われる。

その筈だった。しかし今回は白銀どころか、白銀鷹翼級ですらひび割れの断崖窟への侵入が禁止されていた。どうやらギルド上層部で横やりがあったらしい。


そのことに、このバルド唯一の白銀等級冒険者のみで編成されたパーティーのリーダー、バークレーは憤っていた。ただでさえ、自分の縄張りの街に他の所からそれなりの数の白銀等級冒険者が集まった挙句、自分たちですら戦力外とみなされたのだ。


馬鹿にしているのか?そうギルドに詰め寄ったのは一度や二度の話ではない。

しかし、それに対してのこの街のギルドマスターの回答は、貴重な戦力の損耗は避けたいの一点張りだった。

この街のダンジョンは一つではない。招集された白銀等級の冒険者たちは他のダンジョンで思い思いに探索をしている。結局現状はよそ者に縄張りを荒らされてるだけなのだ。

冒険者の街の顔役としてのメンツも、上位の冒険者としてのメンツ、すべてが蔑ろにされている。この事態に怒り心頭になるのは致しかたないのであった。


「おい! ギルマス! いい加減にしろ! せめて白銀冒険者は帰させろ!」


大きな槍を背負い、額に傷を負った男――バークレーは今日もバルドのひげ面のギルドマスターを激詰めしていた。


「そうはいってもな……。わざわざギルドから招聘した高位冒険者に事情が変わったからすぐに帰れと言えるわけもあるまい?」


このやりとりも何度も行ったことだ。

白銀等級は英雄に片足以上踏み出した者たちだ。そんなのが何人も集まっては、それ未満の冒険者たちのあがりが減るのだ。それでは街に根付いた冒険者たちは商売あがったりなのだ。そういった不平不満もバークレーの耳には入ってくる。


そういった事情はギルドマスターも把握はしているのだが、ギルドの方針として街の危機に対してそういった木っ端な冒険者の生活については無視される。

現状として今回のひび割れの断崖窟で起きていることは、全容が掴めていないこともあり白銀以上の数を減らす判断は一介の街のギルドマスターが差配でどうにか出来る話ではないのだ。


故にここ数日不毛なやりとりを続ける以外することがなかったのだ。


今回のギルドの方針としては、ファルトのギルドマスター首狩りボーパルバニーが提案した。白銀獅子等級冒険者 メテオラとその付き添いが一名の計二名での単独潜行である。ギルドの各支部長クラスならメテオラが動くという時点で、もはや普通の白銀獅子級でも手に余る事態だと推して測れるがそれを一介の冒険者に伝える訳にもいかないのだ。


涼し気な顔をしているが実際は回答に窮しているのだが、なんとかギルドマスターの顔を取り繕い懸命に話を躱していた。しかしそろそろ限界は近かった。

そんな時だ、メテオラとトモがギルドハウスの戸をあけ放ったのは。


「ギルマスはおるかの? メテオラが来てやったぞ!」


「まーた喧嘩売って、乱闘とかやめてよメテオラ?」


「解っておるわい。 今回は仕事じゃから大丈夫じゃッて」


メテオラの思いのほか早い来訪にギルドマスターはほっと胸を撫でおろす。

バークレーの詰問からようやく解放されそうだ。


「あぁメテオラ様、わたくしがこの街のギルドマスターです。 お早いご到着ありがとうございます!」


カウンター越しにメテオラへ声を掛けるギルドマスター。しかし、話を強引に切り上げたバークレーは納得がいかない。


「おい! ギルマス! まだ話は終わってねーぞ?」


その言葉を無視するギルドマスター。敢えて視界に入れない様にカウンターから出て、メテオラの元に向かうのはもう話すことはないと打ち切る姿勢を前面に押し出していた。


「メテオラ様。一階ではなんですので、どうぞ二階へ。お連れ様もご一緒に」


「なんじゃ? あそこの小僧と話していたようじゃがよいのかの?」


「平行線でしたから大丈夫ですよ。それより、断崖窟の件のお話が先にしたく存じます」


そのままメテオラ達が二階に上がろうとすると、置いていかれる形になったバークレーがやはり納得がいかないとメテオラに詰め寄る。その流れに「またか……」とトモは呆れたように頭を抱えた。


「悪いがねーさん。 ギルマスとは俺が先約だ。まだ話は終わってねぇ! すこーしばっかし待っててくんねーか?」


バークレーの表情は青筋立ち爆発寸前といった面持ちだ。

手は背負われた槍に掛かっている。

それを確認したメテオラは間髪入れず、げんこつをバークレーの頭に喰らわせたのだった。

その一撃を捕らえられたのはトモのみだ。周りにいた冒険者は鈍い音と共に急に床に頭が埋まったバークレーの姿を見たのみであった。


「武器に手を掛けて話など出来る筈があるまい。 少し反省せい」


手をぱんぱんと叩き。バークレーを置いてメテオラは二階に上がっていく。

バークレーの仲間がめり込んだ床に駆け寄ると、見た目ほど怪我は酷くないようで安心している姿をトモとギルドマスターは確認し、そのまま後に続く。

心なしかギルドマスターの足取りは軽やかだった。

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