魔法少女、空を飛ぶ迷惑

朝早く日の出前にファルトの街を出て、穀倉地帯を足早に抜けすぐに森の中に入ったトモたちは、周りに人がいないことを確認すると、変身の魔法を解いた。

メテオラは巨大な龍の姿へ、トモは黒と赤の髪色の悪魔の姿に戻っていた。


「それでどの辺に座ればいい?」


「羽根の付け根より前に座るといい。 ちゃんと捕まっておれ」


そういうとメテオラは伏せるように、態勢を低くする。

大きな前足を上げ、トモが飛び乗りやすいように足場にしてくれたのだ。

トモはぴょいぴょいと飛び、背中の辺りに乗るとメテオラは「よいか?」と聞き空に飛びあがった。


朝焼けに染まる空は、地平線を紫に染め上げていた。

雲一つない空に陽の光がトモを襲った。薄目を開けながら見るその景色は美しく自然と涙を流していた。


「すごい景色だね」


「じゃろう? この朝の空の景色だけは一万年以上変わらず美しい」


メテオラが珍しく早起きしたのはこれの為だったようだ。

面倒ごとばかりで、気の休まる事のないトモにちょっとしたサプライズのつもりだったらしい。その気遣いに少しだけトモは感謝した。


しかし寒すぎて、失敗したという気持ちの方が遥かに強かった。



それから、丸一日空を飛んだメテオラだが、特に疲れた様子はなかった。

逆にトモは地上に降りての休憩中はもう空を飛びたくないと駄々をこねはじめていた。というのも、寒い上に、硬い鱗の上の乗り心地は最悪なのだ。ごつごつしていて、内股には青あざが出来ている。


「もう、クーリガー! まだ飛行魔法使えないの?」


「あの首狩りボーパルバニー神技スキルを解析できればよかったのですが、乱数の解析が上手くできないのです。 メテオラも飛行魔法を使っているようですが、龍の身体に特化した魔法のようですので、現状はもう少しお時間をいただきたいです」


トモはその答えに落胆すると、渋々といった様子でまた、メテオラの背に乗る。

そのまま目的地の近くの森に着いたのは深夜の頃。

予定より早く一日で辿り着いたのだった。


「結構早く着いたね」


「上でぶーぶーうるさいのがいるのでの」


「きこえなーい」


「ところで、その恰好はなんじゃ? ぷふぅ……!」


そういうとトモを見遣り、笑いを堪え切れないといったメテオラにトモは憎々し気な眼を向けた。 メテオラの反応はもっともで、トモが地面に立った姿はがに股でプルプルと震えているのだ。まるで生まれたての四足獣のようなありさまであった。


「足を拡げて何時間も空飛んでたら、こうもなるわよ……! クーリガー! 私も早く飛べるように調整しておいて! 最優先! いい?」


「了解しました。マイスター」


八つ当たりの様に命令するが、クーリガーは軽く流すのであった。


ここからバルドまでは徒歩で数時間といったところらしい。

メテオラは休憩を提案したが、余程今の無様な恰好を触れられたくないトモは強行に森の先へ進むのであった。


朝日が差す頃、疲れ切った表情のトモがやっと街道に出たことでその強行軍は終わった。街道にはそれなりの人通りと馬車の行き交いがある。


「なんだい嬢ちゃんたち森を抜けてきたのかい?」


荷台に麦を積めたロバと歩くふくよかなおじさんがトモ達に声を掛ける。

どうやらこれからバルド方面に向かうようだ。


「夜通し歩いて抜けてきたけどバルドまではあとどれくらいです?」


歩き疲れたといった表情のトモにおじさんは、


「大体二時間ぐらいかねぇ。 お嬢ちゃん良ければ荷台に乗ってくかい? べっぴんさんも」


「あーわしは歩けるから大丈夫じゃ。 その子もまぁ大丈夫だとは思うが……、駄々を……。いやトモ乗せてもらうがいい」


「駄々って今言ったよね?」


その言葉にトモが反応するが、ふくれっ面のトモの首根っこを掴みメテオラは荷台に放り投げる。


「あーもうめんどくさいのう」


「あいた!」


どうやらトモは頭から麦の束に突っ込んだようだ。

その振動にロバは少しびっくりした様子だったが、メテオラがロバの頭を撫でつけるとすぐに大人しく歩きだす。


「はぁー恩寵ステイタスが高いんだねぇ。人を軽々と放り投げちまうなんて」


この一連の流れにおじさんは感心しきりだった。


「まぁ少しの? 悪いがあの娘を街まで連れて行ってくれ。どうせその内、寝息を立て始めるからの? 代金はこれでいいかの?」


そういってメテオラは金貨を取り出す。だがおじさんは慌てて、「そんな貰えんわ。銅貨1枚もありゃ十分」といって突き返すのだった。


それから数分街道を歩いていると、トモが寝息を立てて眠ってしまった。

それに気づいているのか、ロバは歩みを少し緩めるのであった。

そこから二時間後、一行はダンジョン都市バルドに到着したのだった

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