第13話:ラッキースケベ
晴子が現れてからもうすぐ一週間が経とうとしている。俺も晴子も今の生活にだいぶ慣れてきた。
しかし度々学校に顔を出しに来ている。もはや止めるのは無理だと悟り、放っておくことにした。
晴子の人気は徐々に上がり、クラス内ではまるでアイドルが現れたような雰囲気になっている。だが当の本人はあまり自覚していないようだ。
相変わらず男装姿だが、見慣れてきたのかもはやアイデンティティと化しているようだ。
現在学校の帰りで、千葉、天王寺と一緒の三人で歩いている。
「出久保は羨ましいよなー。あんな可愛い子と一緒に住んでいるんだろ?」
「まあな」
今話題にしているのは晴子の事だ。
「おれの乱暴な姉貴と交換してほしいぜ……」
「それはいくらなんでもお姉さんに失礼なんじゃ……」
「あんなの姉じゃねーよ! 天王寺は姉貴の恐ろしさが分かってない!」
「僕は一人っ子だからよく分からないや……」
千葉の姉とは前に会ったことがあるが、とても乱暴そうには見えなかったけどなー。
「それに比べ、晴子ちゃんはいいよな~。あんな綺麗なのに男相手でも気軽に話しかけてくるし。おれ達の話についてこれるし。男心が分かってるっつーか……なんか話やすいんだよな」
元男ですから。
「胸もあるし、ポニテ姿も可愛いし、おまけに『オレっ子』ときたもんだ! あんないい女の子は他に居ないぜ?」
「うーん。僕はもっと大人しい子がいいなー」
「はぁ!? 天王寺は高望みしすぎだろ! 晴子ちゃん以上にいい女なんて見つからねーだろ!」
「晴子さんも魅力的だけど……やっぱり清楚な人がいいなぁ」
「かーっ! 分かってねーな! ああいうのは結婚すると大人しくなるタイプだと思うぜ」
「そうかもしれないけど……」
性格が捏造されていく想像上の晴子。
そういや晴子は誰かを好きなったりするのだろうか。
さすがに男は恋愛対象にはならないだろう。少なくとも俺が晴子の立場だったら男に恋したりしないと思う。好きなるとしたら相手は女になるのか?
そう考えると晴子は色々と不便だ。精神的には男なのに、体は女のせいで恋愛すら一苦労するハメになるのだから。
ま、こればかりは本人の問題だ。
二人と途中で別れようとしたときだった、離れた所に今話題に出している人物が歩いているのが見えたのだ。
「は、晴子ちゃん!?」
「ん? なんだお前ら。いま帰りか」
「そうなんだよ! こんな所で会えるなんて偶然だよな!」
素早く移動する千葉。
「すごい速さで向かって行ったね……」
「現金な奴だ」
「……ついでだから僕も挨拶してくるよ」
小走りで晴子の元へ向かって行った。なんだかんだ言ってあいつも気になっているようだ。
が、近くまで接近し止まろうとしたときだった。足に躓き、転びそうになる天王寺。
「う、うわぁ!」
「おっと」
そして顔面から晴子の胸へとダイブした。
おお。あれはラッキースケベってやつだな。
一瞬の間があった後、自分が今どんな状況になっているのか理解したらしく、素早く離れて土下座した。
「ご、ごめんなさいごめんなさい! ワザとじゃないんです!」
地面に叩き付けそうな勢いで何度も頭を下げる天王寺。
そんな姿を見て晴子は少し慌てている。
「お、おい。そこまで謝らなくても……」
「で、でも……怒ってるんじゃ……」
「いやいや。怒ってないってば」
「ほ、本当に?」
「怒るほどのもんじゃねーだろ。次から注意すればいいんだし」
「…………」
「ま、とりあえずオレはもう行くわ。ちょっと寄る所があるからな。じゃーな」
そう言って片手をヒラヒラさせながら立ち去っていった。
姿が見えなくなった後、ゆっくりと立ち上がり、こちらに向き、メガネをクイっと上げた。
そして――
「やっぱり晴子さんって素敵な人だよね! 僕の理想的な人だし!」
「いやいや。さっきと言ってることが違うじゃねーか」
「そんなことないよ! 前からタイプだったし! 時代は晴子さんみたいな人を求めてるんだよ! そう思わない!?」
「お、おう」
……もしかしたら晴子はサキュバスか何かの生まれ変わりなんだろうか。
その後も目をキラキラさせながら熱演する天王寺であった。
二人と別れた後、家に帰らず本屋に立ち寄り、数十分ほど雑誌を立ち読みしたあと帰宅した。
家に帰り、部屋のドアを開ける。
「おかえりー」
「ただい――ブッ!? な、なんて格好してるんだよ!」
ドア開けた先には、パンツとブラだけ着た下着姿の晴子が居た。
「あーさっき風呂に入ってたんだよ」
「す、すぐに服を着ろ!」
「ちょっと待ってくれ。いま髪乾かしてるから」
「今すぐやれ!!!」
そして勢いよくドアを閉めた。
これもラッキースケベってやつなんだろうなぁ……
つーかいい加減、晴子には女として自覚してほしいもんだ。この調子だと先が思いやられる……。
その後やんわりと注意したが、あまり効果が無さそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます