【執行の女神】セレーナ最期の一日

かわなかさと

第1話


 ここは辺境の地、アルカン大陸統一が成って早5年が経緯していた。

大陸北東部の岬は猛烈な北風が吹きつけている。此処に聳える城はセレーナの居城キールセン城である。  


 大戦掃討作戦後、セレーナは辺境伯(侯爵相当)に任じられ、この地に腰を落ち着けていた。


 城内は外の強風が嘘の様に静かだ、これも魔力防御壁の効果だ。


 執事のヒロはセレーナに声を掛ける。


「セレーナ様、陛下がお見えになられました。お出迎えをお願い致します」


セレーナは椅子から立ち上がり答える。


「うむ、奴に会うのも久しぶりだ!」


 執務室を出て1階の玄関大広間へと向かった。長身で銀色のロングヘアー身体にフィットする薄紫色のワンピースドレスで適度に引き締まった魅力的なスタイルをしていることがわかる。

 

 年齢的には20代前半にみえるが実際の年齢は不明である、公称年齢は44才と言う事になっているが?


 初めて目にした者は必ず釘付けになるであろう顔立ちスタイルをしている。


 大戦では敵軍から【殺戮の天使】と呼ばれ各地を転戦していたセレーナであったが、今は領地経営に専念していた。


 今回の皇帝来訪は、今後の帝国運営に関しての帝国四卿、皇帝の会談であった。


 セレーナも四卿を含む重臣の1人となっていたが、最近は会議に参加していない、帝国政局運営にはあまり関心が無いのだ。


 本来は許さない事ではあるがセレーナに対しては皇帝は大目に見て許していた。


 今回は参加が容易でないセレーナのために、ほかのメンバーがセレーナの居城に集まる事になったのだった。


 辺境グリーンベイ領、セレーナの収める領地である。大陸統一時、安定運営が難しいと言われた帝国領であったが、三年ほどでセレーナは領内を安定させ人心掌握を成していた。

 

 城の防風壁中間部屋から、城内への大きな扉が開いていく中の玄関広間が見えてくる。


 皇帝ルーベンスは、広間に立っている人物を確認するすると、その人物はスカートを両手で少し持ち上げ頭を下げる。


「皇帝陛下! 御身就らのお出まし感謝痛み入ります!」


 皇帝ルーベンスは少し笑みを浮かべて言う。


「セレーナ卿、慣れぬことをするなそれこそ 私への不敬だ」


 そして皇帝ルーベンスは歯を見せて笑った。


 セレーナはそれを受け。

「はっ! ではその様に!」

 セレーナは顔を上げ笑顔を見せる。

「陛下こちらへ」


 セレーナが皇帝ルーベンスに声を掛ける。皇帝は手を軽く上げて、護衛騎士に付いて来なくて良いと合図する。


 セレーナが先導し皇帝と応接室に歩いて向かった。


 応接室のドアを執事が開け2人が入室すと、セレーナが執事のヒロに声を掛ける。


「私が呼ぶまで来なくてよい」


 ヒロは直ぐ返事をする。

「はい、承知しました」

 

 ヒロは深く頭下げ、応接室のドアを閉め退出した。


 皇帝ルーベンスはドアが閉まるのを確認して、一番奥のソファーに腰を下ろすと顔を緩ませて言う。


「師匠元気そうで、何よりです」


 セレーナも微笑みテーブルを挟んで反対側のソファーに座り言う。

「ルーベンス疲れているな、休みは取っているのか?」


 ルーベンスは少し視線を落として言う。

「帝国は広大ですからね、なかなか本当に休むのは難しいですよ」

 

 セレーナは少し心配そうな顔で言う。「そうか、私が出来ることはあまり無いかもしれんが、聴くだけは聞いてやるぞ」


 皇帝ルーベンスは少し間をとって言う。

「師匠は十分に働いてくださってますよ、師匠とこうして話せるだけで幸せです」


 セレーナの赤色の瞳はルーベンスの茶色の瞳を見つめると言った。


「だが、お前は相当疲れている。心も身体もな、私の癒しで身体は何とかしてやるが、心は充分には癒してやれぬ」


 ルーベンスは瞳をゆっくり閉じて、息をゆっくり吐き、一瞬考えたような素振りを見せる。そして、ルーベンスは、意を決した様に立ち上がり、セレーナの前に歩み寄った。


「・・・・・・どうした、ルーベンス・・・・・・」


 ルーベンスはセレーナの肩を強引に抱き寄せ、セレーナの瞳を見つめ顔に自分の顔を近づける。

ルーベンスはセレーナの赤い瞳を見つめ。

「セレーナ師匠、私の愛を受け入れてください! そうすれば、私は、心の平安が得られます!」

 

 そう言ってセレーナの薄ピンク色の唇に自分の唇を重ねるが、直ぐにセレーナの右手が入り顔を押し戻される。


 セレーナは、ふっと息を吐き戯けたように言う。

「それは無理だ、散々言って来た事だ! 私にはお前を受け入れられん! だから勘弁してくれないか」


 ルーベンスはセレーナの瞳を見つめて言う。

「一度は私を受け入れてくれたではありませんか! あれ以来、私を拒否し続けるのはなぜなのですか? 私を、男として認めてくれないのですね! 皇帝までなったのに!」


 セレーナは笑みを消して真剣な顔つきでルーベンスに対して言う。


「知っているだろう! 私が人とは違う存在だと、お前に不相応な身なのだ、お前は私と今後関わらない方が良い・・・・・・、あとあと、後悔する事がわかるから、嫌なのだ・・・・・・、お前に相応しい女はいくらでもいるだろう」


 セレーナは更に一呼吸置いてから言う。

「私は、もう少ししたら、辺境伯を返上し、この地を去るつもりだ」


 ルーベンスは驚いた顔をしてセレーナを見つめる。

「何故・・・・・・、セレーナ師匠はまだまだ帝国に必要です。いえ・・・・・・ 私を置いて行かないでください」


 セレーナは瞳の前の銀髪をかきあげる。

「これ以上お前の役には立てぬ! 私は表で目立ち過ぎた、お前にも今後、迷惑を掛ける事にもなるだろうからな」


 ルーベンスは悲しい顔をする。

「私のために、師匠を怪物にしてしまったのは私の責任です。【殺戮の天使】などとふざけた呼び名を私は許せません」


「それは、別に構わんさ、気にするな」

 

 応接室のドアがノックされ、ドアの外からヒロの声が掛かる。


「セレーナ様、諸侯の皆様方がお見えになりまた」


 セレーナはそれに応える。

「あゝ、わかった!」


 セレーナは立ち上がりルーベンスを見て言う。

「出迎えに行って来る」


 セレーナは応接室のドアを開け、軽く会釈して出て行った。


 そして、出て行くセレーナを見送る、皇帝ルーベンスの瞳は恐ろしく冷たく変わっていた。


◆◇


 ここは、セレーナの居城内、大きな2面のガラス張りが自慢の100畳程の応接広間。

 そこには、先程揃って到着した帝国四卿、そして皇帝、セレーナ、6人が大きい大理石のテーブルを囲み立っていた。


 テーブルの上に置かれた豪華な装飾の施された箱を皇帝が開き、中央に宝石があしらわれた首飾りを取り出した。

「これはアクセリアル大陸の貴重な宝石を使った首飾り、セレーナ卿のために取り寄せたものだ」


 セレーナは皇帝に微笑む。「それは身に余る光栄です」


 皇帝ルーベンスは首飾りの金具を開き、セレーナの背後に周ると首飾りをセレーナに着ける。


 セレーナが首飾りを身に着けて暫くして異変が起こり始める。

 

 セレーナの頭の中では危険感知スキルが異常を知らせている。

(えーーっ! こんな事、今までに無かった! かなりマズイ状況なのか?)

 セレーナのは身体は完全に機能不全に陥っている。セレーナは意識が薄らぐなか言葉を発した。

「なぜ・・・・・・ 、どうして?」

 

 皇帝ルーベンスは言った。

「私にとってセレーナは大切な人です、ですがこのままでは・・・・・・」


 セレーナは虚な目でかろうじて呟く様に言う。

「そんな目で見るな、そうだな私はやり過ぎたのだな・・・・・・」

 薄れゆく意識の中でセレーナは考える。(ローゼか? あゝ、やってくれたものだ! 私は不滅だ! いつかまた復活する時もあろう・・・・・・、その時に・・・・・・あゝ・・・・・・)そしてセレーナの意識は途絶える。

 

 セレーナの赤い瞳は生気を失い、何とかバランスを保っていた体は倒れ込んだ、それを皇帝ルーベンスは両手で受け止め支える。

 

 セレーナの美しい顔は血色を失い蒼白になっている、心臓の鼓動も感じ取ることが出来ない。美しい銀髪は垂れ下がり、そこには戦場を駆け回っていた頃の気高く貴賓満ちた美しさはもう無い。

 

 セレーナの胸元の首飾りが光を増して怪しく光っている。首飾り埋込まれている楕円形の紫色の宝石は怪しい光を放ちながら漆黒色に変化した。


 これは周到に計画された女神ローゼと帝国四卿による女神セレーナ封印の策略であった。 


 皇帝ルーベンスは、倒れ込んだセレーナを抱えながら悲しい顔をしている、他の四卿は安堵の表情浮かべ対象的だった。


 皇帝ルーベンス力無く言う。

「セレーナ卿は死んでいるではないか、魔力を封印し無力化するだけとしか聞いてないぞ!」


 ゼリアン公爵は皇帝に対して言う。

「はい、そうように私も聞いておりましたが!?」

 ジェリーズ侯爵が視線を倒れ込んだセレーナ向け言う。

「皇帝陛下、はっきりと申し上げますが、

 セレーナ様は人間で無く、天上人ソラリスの女神のお一人、執行の女神セレーナ様なのです!」


 ジェリーズ侯爵は皇帝に視線を移して

「今回の件、統制の女神ローゼ様の神託ですので、私どもではどうにもなりません! これは私どもの務めでございます」


 皇帝ルーベンスはジェリーズ侯爵を睨み付ける。

「お前は最初から、こうなると知っていたのだな! 皇帝である私を騙したのだな!」


 ジェリーズ侯爵は皇帝ルーベンスを見据えて言葉を返す。

「はい、これは女神ローゼ様の御神託にございます。帝国の安寧繁栄を願うなら是非もありません! このままでは、いずれ我々はセレーナ様と敵対して殲滅される運命にあったとご理解ください」

 

 続けてジェリーズ侯爵は言葉を続ける。

「皇帝陛下に忠誠の誓いに嘘はありません、ですが陛下はセレーナ様に対してあまりにも冷静さを欠いております。ですので申し訳ありませんが、今回のことローゼ様のもと私の一存で進めさせて頂きました」


皇帝ルーベンスは言葉聞き声を荒げる。

「帝国の安寧繁栄のためだと! セレーナ卿は我が帝国のために尽力したのだぞ、それに報いず、この仕打ちか!」


ジェリーズ侯爵は首を横に振って静かに言う。

「執行の女神セレーナ様は天上界の掟を破り人間界に大きく加担したのです。それは統制の女神ローゼ様の許容範囲を大きく超えたものでした。間違いを犯したのです」


皇帝ルーベンスは抱き抱えたセレーナの長い銀髪を撫でながら言う。

「全て私の責任なのか・・・・・・」


ジェリーズ侯爵は屈み込んで膝をつく。

「皇帝陛下、女神ローゼ様は姉君が愛した男だから今回は大目に見るとのことでした」


 皇帝ルーベンスは瞳を見開きセレーナの顔を覗き込みる。

「姉君が愛した男だとそれは・・・・・・」


 ジェリーズ侯爵は言う

「皇帝陛下です、セレーナ様は天上界の女神であらせらる以上、人間である陛下を受け入れることは出来なかったのです」

「そして統制の女神ローゼ様はセレーナ様の妹君であらせられます」

「私は女神ローゼ様よりセレーナ様御身は外敵から犯されることのない、ゼスタの地下神殿に封印せよと仰せつかっております」


 ジェリーズ侯爵は膝付き深く頭を下げる。

「今回の件、全て片付きましたならば、

どの様な処分もお受け致します」

「セレーナ様御身、今より私が、ゼスタ神殿に送り届けて参ります」


 皇帝ルーベンスはセレーナを抱えたまま立ち上がる。「それでは、このまま私が神殿までセレーナ卿を連れて行く!」

 

 ジェリーズ侯爵は立ち上がった皇帝を見上げて言う。

「それは、ご容赦願います!」

「女神ローゼ様の封印の秘技、何人たりと立ち入れません!」


 皇帝ルーベンスはそれを無視する様に言う。

「それでは行くぞ、ジェリーズ案内せい」


「それでは、セレーナ様が消滅しても良いと?」

 ジェリーズ侯爵は冷たい瞳で皇帝ルーベンスを見つめて言った。


 皇帝ルーベンスは、驚いた顔をしてジェリーズ侯爵を見て言う。

「それはどう言う意味だ!」


 ジェリーズ侯爵は言う。

「はい、魔導首飾りで魔力を吸い上げ、精神体と肉体を一旦分離しておりますが、封印の儀式を一日以内に行わなければ、精神体が首飾りにより破壊され二度と復活出来なくなります。それでよろしいので?」


 皇帝ルーベンスは視線を落として言う。

「それは、今後、蘇ることがあると言うことか?」


「はい、女神ローゼ様のお許しが出るのであれば、今後あり得るかと」

 ジェリーズ侯爵が言った。


「そうか・・・・・・、わかった、ジェリーズ任せよう・・・・・・」

 皇帝ルーベンスは力無く頷き言った。


 皇帝ルーベンスは客広間の扉を開けさせてセレーナを抱えたまま玄関広間へと向かうのだった。

 

 それから3日後、セレーナ辺境伯、帝国令に基づき国家反逆罪により死罪、及びセレーナ配下、家臣騎士団は武装解除、拘束、直属10騎士は反逆加担により死罪、辺境伯領は帝国皇帝直轄領に編入されたと発表された。


 それから千年ほどの時が流れ、統制の女神ローゼは、世の乱れを治めるため、執行の女神セレーナの力が必要となる。

一人の少女を依代とし女神セレーナを復活させたのだった。エリーブラウンと言う名の少女として。


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