第22話 ハンガーノックの大男
「――――リッチマン……いや、ヨウヘイ。大丈夫でありんすか!?」
――――火炎戦斧のヒーローを背負って『リターン』を念じ、リッチマンは一先ず研究所の転送装置まで帰って来た。
「――俺は大丈夫だよ。ダメージ喰らったとこはバイタル・チャージで治したし、他も変身を解けば治るだろ。それより、こいつの手当てを――」
リッチマンは背負っている彼に視線を送る。すぐさま
「……そいつは、ヒーローの力を使うのに衣服と……それとカロリーを消耗するっつってた。『腹が減って死にそう』とかも。怪我の治療よりは、とにかく飯を食わせればいいんじゃあねえか?」
マユは医療班と共に、炎のヒーローを少し診る。
「――確かに、これは外傷のダメージよりハンガーノックの一歩手前でありんすね。補給物資係は急いで食料を持って来て!! すぐに医務室で栄養の点滴も行ないんしょう。」
――人は急激にカロリーを消耗し過ぎると、急激な飢餓状態で脳がショックを受け、ブレーカーのスイッチでも落とすようにハンガーノックで意識が落ちてしまう。当然そのままにすると生命に関わる。対処法はマユの指示した通りすぐにカロリーを補給するべく食事と栄養の補給だ。
――その後、一時思わぬ闖入者であり、味方でもある大男が来たことで一時班内は騒然となったが、少し落ち着いたあたりでヨウヘイも変身を解いて医務室で待機した。
傍らにはその大男もベッドで横になっている。
「――良かった…………ヨウヘイも重傷を負ったかと思いんしたが、本当にバイタル・チャージと変身解除による治癒で傷ひとつ残ってないでありんすね……。」
「……ちょっとの間とは言え、攻撃を喰らった時はめちゃくちゃ痛かったけどな…………一先ず俺もこいつも無事で良かったぜ…………。」
ヨウヘイが傍らの大男を見遣る。
いつの間に変身が解けたのか、彼はスポーツインナーに太めのジーンズを着込んだ、ガテン系を思わせるような格好をしている。普段の日常では肉体労働者なのだろうか。
「――――う…………む…………ここは――――?」
――意識を取り戻した。ゆっくり目を開けて、辺りを見渡す。
マユもすかさず瞳孔や脈拍、呼吸などを診て異状が無いか確認する。
「――意識はハッキリしてるでありんすね? わっちの姿が見えんすか?」
「――ああ……見える…………白衣を着た金髪の女……そこに、男もいるな…………もしかして、さっき一緒に戦った奴か――――?」
――意識がハッキリ戻り、マユとヨウヘイが視認出来ているのを見て、ヨウヘイも安心した。そして明るく話しかける。
「――ご明察だぜ! 俺はカネシロ=ヨウヘイ。ついさっきまでリッチマンってヒーローに変身して潜ってたんだ。おめえは?」
――大男は意識を取り戻したばかりだが、目付きは鋭い。相当な力を持っていそうだ。
「――俺は……アリノ。アリノ=ママニシ(有野 間々西)って名前だ。お前も見てただろうが、俺は変身したら炎を操るヒーロー……『ネイキッド・フレイム』となって戦える……だが、ここは一体――――ううっ…………眩暈が……腹が減った――――。」
――マユはハンガーノックから立ち直ったとはいえ、かなり空腹なのを察して傍の大量のジャンクフードとスポーツドリンクを籠に詰めてアリノに渡した。
「――全快するまでは無理しないで。ここは、あの怪人たちを退治しようとする人たちが集まった研究所でありんす。まずは腹いっぱいになるまで食べるべきでありんすぇ。」
「……そうか…………助かる――」
――そう告げて、アリノはすぐに手を伸ばして、ハンバーガーやらスナック菓子やらおにぎりやら、とにかく腹が膨れそうな物をがつがつと食べ始めた。
「――なあ。俺も食っていいか? 俺もこいつほどじゃあねえけど疲れて腹減ったよ。まずは飯だぜ。飯、飯!!」
――マユは、あれほどの危険を冒して帰って来たというのにどうも楽天的なヨウヘイに調子が狂う心持ちだが、自分の腕時計を見て、もうお昼時を過ぎた辺りな時間帯であることを確認して、一旦溜め息を吐いた。
「……そうでありんすね。わっちも疲れんした。食堂でお昼にしんしょう。アリノ。一緒に来んすか? 立てる?」
爆食しているアリノだが、口の中の飯をスポーツドリンクで飲みこんだのち、答えた。
「――かたじけない。足は……まだ少しふらつくが。」
「俺が肩貸してやるよ。アリノはその籠持ってな――――うおっ、と……リッチマンに変身状態だと軽かったけど、やっぱこんだけデカい身体だと重てえなあ! その様子じゃあ普段からめっちゃ食うんじゃあねえのか?」
「……すまん。この身体だと変身なしでもすぐ腹が減るんでな……。」
――そのまま3人は、アリノを支えながら所内の食堂へと足を運んだ――
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