そして、オカメしかいなくなった。【予告編】

阿々 亜

プロローグ

【オカメ】

 オカメは、古くから存在する日本の面(仮面)の一つである。丸顔、鼻が低く丸く、頭が小さく、垂髪、頬が丸く豊かに張り出した(頬高)特徴をもつ女性の仮面であり、同様の特徴を持つ女性の顔についてもそう呼ぶ。


(中略)


 本来古代において、太った福々しい体躯の女性は災厄の魔よけになると信じられ、ある種の「美人」を意味したとされている。だが縁起物での「売れ残り」の意味、あるいは時代とともにかわる美意識の変化とともに、不美人をさす蔑称としても使われるようになったとも言われている。


OKAME(October 25, 2023 13:05 UTC).

In Wikipedia: The Free Encyclopedia. Retrieved from

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8A%E3%81%8B%E3%82%81




 彼は、スマートフォンの画面に表示されたその文章を読み終わり、ため息をついた。そして、ある一節をもう一度読み返し、心の中で反芻する。


 不美人をさす蔑称……


 その意味合いが、彼の最愛の人を奪い去ってから1年近くの時が経過していた。この一年間、彼の中には常に炎が燃えていた。その炎は、彼の心と体を焼き尽くさんほどの勢いだったが、皮肉なことに、その炎が最愛の人を失った喪失感と孤独を麻痺させ、生ける屍になりかけた彼を今日まで動かしてきたのだ。


 彼はスマートフォンを鞄にしまい、かわりに鞄の奥から6枚の仮面を取り出した。6枚とも、“オカメ”の面だった。彼は6枚の面を束ねて手に持ち、立ち上がった。


 そこはとある海岸の砂浜だった。静寂の中、単調な波の音だけが響いてくる。


 時刻は午前4時。およそ1時間後には夜明けだが、空はまだ暗い。


 彼は海の彼方を凝視した。肉眼で見えるぎりぎりのところに小さな島の影があった。


 あそこで全てを終わらせる……


 彼は心の中でそう呟き、手元に視線を移した。


 オカメの面は笑っている。


 それは、彼に微笑みかけているのか……

 それとも、彼を嘲笑っているのか……


 彼にはわからなかった……



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