第22話 思春期男子

僕の作業が終わって、僕はまたユキの近くに車椅子を戻された。母達の目の届く位置だ。今度は車椅子を真正面ではなく、斜めに向かい合って座らせてもらった。ちょっと一安心と思ったのも束の間。


おーい。

今度は近すぎて膝がくっついてるよー。

母さん、ちょっと思春期男子の扱いが雑すぎるよ。

母は僕がこんなこと思ってるなんて露知らずだった。すぐにお喋りに夢中になっている。


『膝がくっついてごめんね』と僕がユキに伝えたら、ユキは『大丈夫だよ』と言ってくれた。


普段だったら、こういう時はただ気まずい状態が続くんだけど、こうして心の会話ができて助かった。


自分の意思が相手に伝えられるって、なんて素晴らしいんだろうと思った。


そんなことをやっていたらあっという間に時間が過ぎて帰りの時間になった。


ユキに『楽しかった。またね』と伝えたら、ユキは『ありがとう。また会いたい』と言ってくれた。


僕は胸がドキドキした。こんな気持ちになったのは生まれて初めてだった。胸がドキドキしたから、もしかして心臓の発作が起きるのではないかと思ってしまった。


でも、発作は起きなかった。


『また会いたい』って言葉が特にすごく嬉しかったんだ。

ユキ、僕もまた会いたいよ。

すごく楽しかった。


でも、僕にはそれを母に伝える術がないんだ。

またすぐ会えるかもしれないし、一生会えないかもしれない。


翌朝、久しぶりの長時間の外出の疲れが祟って高熱を出して数日間入院になってしまった。


「風邪を引いたのはユキの家に遊びに行ったからじゃないからね」と母に言いたいし、もう遊びに行かないなんて、言わないでと伝えたいよ。


気持ちが伝わるといいなぁ。

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