第2話 お花飾りのプレゼント

「お兄ちゃん、苦しいの?」


公園で小さな女の子が話しかけてくれた。車椅子に座っている僕の目線よりも背丈は低いくらいなので、四歳か五歳ぐらいだろうか。


僕は苦しそうな顔になっちゃってるのだろうか。

表情が上手くコントロール出来なくて、自分では笑顔でいるつもりでも険しい顔になっちゃってるのかもしれないな。


「こんにちは、お嬢ちゃん。お兄ちゃん、苦しいわけじゃないと思うよ」


母が女の子に答えている。

うん。僕は今全然苦しくないよ。

むしろ楽しいんだけど。


「良かった。お兄ちゃん、これあげる!」


女の子は僕の膝の上に植物で編んだような何かを置いてくれた。その何かは植物の優しい香りと女の子の一生懸命な力のこもった形をしていた。


植物は女の子に摘まれて編まれることをちゃんと同意していたし、女の子に関われたことを喜んでいるようだった。そして、僕の膝の上に置かれることも歓迎してくれてる。


こういう時に喋れたらいいのにと思う。この子に『ありがとう』って言いたいな。ちゃんと耳に聴こえる音で言葉にして伝えたい。


想いもちゃんと伝わるってことは知っているけど、この世界では目に見えて聴こえるものの方が強いから。


「ぁ"……」


僕は『ありがとう』って伝えたくて、声が出てしまった。でもそれは言葉にならない変な音になった。


「ねぇ、お兄ちゃん、やっぱり苦しそうだよ」


女の子は母を見上げてそういった。


「お兄ちゃん、喋れないんだけどね、今、頑張ってあなたにありがとうって言ったんだよ」


お母さん、さすがナイスな通訳だな。僕の考えてること本当にわかっているみたいだ。


「そうなの? じゃあ、どういたしまして」


女の子の視線を感じる。残念ながら顔ははっきりわからない。でも、その女の子は優しい光に包まれているように見えた。


そして、その子はそのまま走ってどこかに行ってしまった。僕の膝の上に女の子がくれた植物の飾りの重みを感じる。


僕は心の中でもう一度ありがとう、と言った。

僕の気持ちが風に乗って女の子に伝わるといいな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る