彼女は10分前に外出した

一色まなる

彼女は10分前に外出した

『私はいま、事件の現場に来ています』

 ブレブレのカメラ映像を何とか持ち直して、私は犯人の住む家へと乗り込んだ。助手とは別ルートで潜入となった。

「ありがとう。おに……助手くん。犯人の現在地は?」

 私は息をひそめて携帯を持っている助手に声をかける。腹ばいになって映しているのは台所だ。

『犯人が出かけて10分経過したところです。行き先はスーパーかと』

「証拠をおさえよう、何かある?」

『これは!』

「何かあった!?」

 暗転した画面の向こうでがさがさと調べる音がした。

『手遅れでした……っ!』

「被害者がいるのか!?」

 私はつい声を荒げてしまった。しまった、犯人が出かけているとはいえ盗聴されているリスクがある。

『被害者は複数です!』

「複数!?」

『包丁でめった刺しされています!』

「メッタざし!?」

 私は気を落ち着かせるように隣の炭酸を流し込む。しかし、事態は急に変わるものだ。

 ブツ、通信が途切れたのだ。

 タ、タ、タ。ゆっくりと、しかし確実にこちらに近づいてくる音だ。ゴクリ、つばを飲み込む。

「探偵ごっこはいい加減にしなさい! 晩ごはんの時間よ!」

 お母さんの言葉に僕はスマホをベッドに投げて部屋を飛び出した。

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彼女は10分前に外出した 一色まなる @manaru_hitosiki

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