レナ ~episode 5~
「ねね」
一樹くんの焦った声が聞こえて私は横を振り返った。
「俺古典休んじゃっててさ。前回何やったか覚えてる?」
私は先週の授業のことを思い出した。確かに一樹くんは体調不良で欠席していた。
「えっとね―」
「はいはい!俺が教える!」
亮が張り切って挙手をする。私と一樹くん、それから麗華も振り返って、訝しげな表情で亮を見た。
「授業ちゃんと聞いてたの…?」
皆の気持ちを代弁して私は言った。亮は自信満々に大きく頷く。
「じゃあ、教えて…?」
一樹くんが言う。亮が胸を張って答えた。
「
これを一気に言い終えると、亮が胸をふんすと反らした。
「まあ、間違ってはないわね…。」
私が苦笑いしながら言う。
「あんたそれ、土日の間ずっと考えてたでしょ。」
「うん」
亮が満足げな表情で言った。私は小さくため息をついた。なんだってこの人はこんなくだらないことはいつも天才的に思いつくんだろうか。
「まあ、そういうこと。その話を皆で音読して、現代語訳したって感じ。多分今日は時代背景とか、ちょっとした歴史っぽいことを復習するんだと思う。」
「あ、ごめん。」
一樹くんがはっとしたように言った。
「亮のダジャレに気がとられて、ぜんっぜん内容入ってこなかった。」
「だからだね、鳴海くん。曹操の息子で早々に―」
「これ、現代語訳。私が写したので良ければ、使って。」
私は亮がもう一度ダジャレを披露するのを遮って一樹くんにノートを差し出した。一樹くんがほっとした表情になる。
「ありがとう。助かるよ。」
「いいえ。」
ちぇっ、と亮が言う。私は爆笑したくてたまらなかったけど、なんとか堪えた。家に帰ったら絶対二人に言おう。私は亮のダジャレを頭の中で繰り返した。
「皆、保護者会の出欠席プリント提出するように。」
ここで担任の先生の言う声が聞こえて、私は慌ててプリントを取り出す。そういえば家を出るとき急いでいて、上の部分との切り離していなかった。私が定規を取り出して破り取ろうとすると、亮が私の机の高さにしゃがみ込み、プリントをじっと見つめた。
「やぶれろー。ビリッといけ、ビリッと!そうだ…!」
私は亮を睨みつけたまま綺麗に紙を切り離す。
「あーあ…。」
「残念だったわね。」
「ああ…!」
亮は頭を抱えて机に突っ伏し、拳で机をドンドンと叩いた。
「足りない、人の不幸が、足りない!生きる活力が、力が湧かない…!」
「人の不幸を生きる活力にしてるなんて、『モンスターズ・インク』の怪物みたいね。でもどうやって不幸ってためるの?」
麗華が興味深げに亮を見つめて言った。
「問題はそこじゃないのよ。」
私は呆れたように目をぐるりと回す。
「そうだよな、そこじゃないよな。」
一樹くんが笑いながら言った。
「問題は、どうして定規だけでそんなに上手く紙を切れるのか、ということだ。ねえ、どうやってんの?」
「あんたも違うわよ!」
私はツッコんだ。その隣で亮はまだ嘆いている。
「ああ、人の不幸が足りなければ、俺はきっと、俺はきっと、授業中に寝てしまうだろう…。」
「いつもとなんら変わりはないじゃないの。」
私はため息をついて先生の方へ歩いて行った。
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