第20話
その声には今までの軽さがなかった。声質は変わらないのだろうが、静かに落ち着いて答えるその声色が低く、唸るような響きで腹の底から放つ言葉にはどことなく緊張感が感じられた。既に爬虫類のような細長い瞳孔の大きな瞳に変わりつつある目で王を見て、従者の男は裂け始めた口で深くため息をついた。
「とはいえ……さすがにこんな狭い場所で、本来の姿は晒せないなぁ……」
男は爪の生えた鱗の腕を天に掲げ、頭は垂れるようにして一言呪文を唱えた。
『呪・自己制御……』
爪の生えた手から、煙が溢れるように白い光がふわふわと舞い降りて男の体に降り注ぐ。たちまち、鱗まみれの体が、まるで萎む蕾のように先程までの白く骨ばった体に戻っていく。その様子もそれはまた先程とは逆で興味深いものであった。
「ほう……。俺の術を返した人物は初めて見た」
王はそう答えて満足気に微笑んだ。その表情は意地悪い笑みが消え、どちらかといえば美しい穏やかな笑みに見えた。そんな王に見つめられながら、ようやく元の姿に戻った男は、安堵するようなため息を一つ、ゆっくりと吐いた。
「ふー……。全く、無茶する人だね、スティラ様も……。ボク自身、自分の本来の姿を見るのは久しぶりだよ〜」
その言葉に、言葉をなくしてその口をあんぐり開けているのはカラスの従者だ。あまりに予想外のものを見せつけられて、もはや驚く以外に反応しようがないようだった。逆に興味深そうに質問を投げかけているのは長身の男だ。
「あれがウリュウの本当の姿って……一体何者なの?」
「言葉の通り、竜だよ」
もう隠しても無駄だと悟ったのだろう。従者の男はあっさりと答えを口にした。
「普通ならボクの本性なんて闇族には、それどころか王にだって晒さないんだよ〜。でもまさか、ボクの代のスティラ様がこんなに強いなんて思わなかったよ〜。もはや隠しようがないよねぇ〜」
そう言って頭の後ろで上を組む男は、呆れた表情だ。そんな生意気な従者を見つめながらも意識は違う所にあるのだろう。茶髪の王はあごを押さえ難しい表情で呟いていた。
「成程な……。この地に闇が溢れた時、古の一族が舞い降りて古来の神と契約を交わした……とは聞いていたが、それがお前達竜の一族というわけか……」
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