第15話 そーじ

「――今日の活動はっ、屋外プールそーじですっ!!」

「……屋外プール掃除?」


 新たな週の放課後。

 アオハル同好会の部室で、ラレアが本日の予定を発表してくれた。


「うぃっ。アオハルと言えば屋外プールそーじですっ! 女子がそーじしながらキャッキャとホースの水を掛け合う姿がアオハルではないでしょうかっ!」


 まぁ、言わんとすることはなんとなく分かる。


「でも屋外プールの掃除なんて出来るのかしら?」


 眞水が疑問を呈する。


「来月のプール開きに先駆けてそこを掃除するのって水泳部とかの仕事じゃないの?」


 確かに水泳部の仕事だ。

 水泳部は屋内プールを年中使っているが、授業用の屋外プールを掃除するのも部活の一環ってことで彼らがやっていたはず。


「ふふんっ、その辺の抜かりはありませんよマーズ!」

「眞水! 誰が火星よ! 大体抜かりがないってどういうこと?」

「ミスミーナ経由で掃除の権限を譲っていただきましたのことです!」


 ホントに抜かりないな……。


「というわけで早速そーじに行きましょう!」


 こうして、俺たちはジャージに着替えて屋外プールに向かった。

 屋外プールの規模は25メートル。

 先日まで緑色の水が溜まっていたが、今はすべてが抜かれている。

 苔だのなんだのが付着していてなかなかに酷い有り様だった。


「これを私たちだけで今日全部やるの無理じゃない……?」

「うぃっ。それは承知の上なので、ひとまず目に見える汚れを落としてくれればそれでいいということでしたっ。あとはぎょーしゃさんに頼むそうですっ」


 なるほど。

 それならまぁ、現実的か。

 

「なんか、ジャージに着替えたはいいけど、ジャージで取り組むのすら躊躇する汚さよね……苔が付着したらシミになりそうだわ」


 眞水の不安は分かる。

 ウチのジャージは緑色だからな。

 シミが出来たら絶対目立つ。


「でしたらスク水に着替えますかっ?」

「え、持ってきてないわよそんなの」

「備品として借りたモノがありますっ。さあ着替えてきましょう!!」

「どぅえ! ちょっと!」


 どうやら着替えてくるようだ。

 ラレアが眞水を引っ張って女子更衣室に入り込んでいく。

 俺は別にこのままでもいいし……どれ、美少女2人のスク水姿を待とうか。


「――おにいちゃんっ、おまたせです!」


 数分後、ラレアが紺のスク水姿で飛び出してきた。

 相変わらずスタイル抜群。

 壁に立てかけていたデッキブラシを手にしてやる気満々である。


 そしてそんなラレアに続いて、


「やれやれよね」


 と、眞水も姿を見せてくれた。

 同じく紺のスク水を身にまとう眞水は、ラレアに負けず劣らずスタイルが良い。

 おっぱいは若干こいつの方がデカいかもな。


「あら、えっちな視線を感じるわね何よ巧己ったら私に興味なさそうなフリしてるけど本当は興味津々なんでしょだったら遠慮せずにほら見なさいよ巧己にだったら幾らでも凝視されてもいいわ実は私のおっぱい最近EからFになっ――」


 こ、怖い……急に早口になるのなんなんだよ。


「――お、これから始める感じだね。間に合って良かったっ」


 そんな折、


「わお! ミスミーナも水着ですっ!」


 そう、ミーナ先生が突如顔を見せてくれたのだが、なんと競泳水着を着用中だった。

 英語担当のミーナ先生が水着になるのはレア過ぎる。

 というよりその格好……、


「……ひょっとしてミーナ先生も手伝ってくれるんですか?」

「あ、うん。そのつもりで来たよ。今日は退勤時間まで一応暇だからね」


 おー、ありがたい。


「それより矢野くん、どう?」

「……どう、とは?」

「あたしのこの格好♪」


 そう言ってなぜかミーナ先生がジワジワと迫ってくる。

 な、なんだ……。


「グッと来ない?」

「い、いやまぁ……セクシーで素晴らしいと思いますけど……」

「(へへ……よしよし。懲戒免職にならないようにアピールし続けよっと)」


 なんか小さくガッツポーズしている。

 ……マジでなんだっていうんだ。


「き、危険だわ……ミーナ先生……」


 一方で眞水がなぜか戦慄した表情を浮かべ始めている。

 お、俺の周りで一体何が……。


「――お三方っ、早くそーじを始めますよっ!」


 た、確かにそうだな。駄弁っている場合じゃない。

 俺たちも意識を切り替えて、デッキブラシを手に持った。

 プールに降りて、掃除の時間が始まる。


「――わっ、ロブスターがいますっ!!」


 そう言ってラレアがプールの端で捕まえたのは――


「……それザリガニ……」


 ロブスターなんて高尚な生き物がこんなプールに居てたまるか。


「じゃりがに!! マミズっ、じゃりがにです!!」

「ちょっ、やめて苦手だからそういうの!!」

「うぇええええい!!」

「きゃあああああ!!」


 ……ラレアがザリガニを掲げながら眞水を追いかけ回している。

 転ばないでくれよな……。


「おにいちゃんもうぇええええええい!!」


 どぅわ! 俺にも来るのか!


「あ、危ないからいい加減止まれって!」

「だいじょーぶで――あぅっ!」


 あ、すべって前のめりに!

 言わんこっちゃない!

 

 このままだと普通に危なかったので俺はデッキブラシを放り投げてこちらめがけて倒れてきたラレアを抱き締めた。

 しかし勢いが止めきれず、ラレアごと背後に――どすんっ。

 とはいえ、俺は合気道を習っていたのでなんとか受け身を取れた。


「や、矢野くんラレアさん大丈夫!?」


 ミーナ先生が心配して駆け寄ってくる。

 眞水は「あーもう……だから言ったのに」と呆れていた。


「ら、ラレア……大丈夫か?」

「うぃ……ごめんなさいおにいちゃん」


 ……素直に謝ってくれればそれでいい。

 怪我がなさそうで良かった。


「と、ところで……はよどいてもらってもいいか?」


 重いのが問題とかではなく、俺の手がラレアの……おっぱいを揉むような形で下敷きになっているのが大問題。

 スク水越しなのでハッキリとした感触はないものの……うん。


「あ、そ、そうですよねっ……今どきますっ」


 ラレアが慌てたようにどいてくれる。

 心なしか表情が赤いのは……ラレアもちょっと意識した証なんだろうか。

 どうなんだろう……分からない。

 

 まぁ……もしそうだったとしてそれがなんだという話だ。

 俺はさして気にせず起き上がり、改めてプール掃除に取り組んでいくのだった。




――――――――――――

お知らせです。

このお話は20話行くか行かないかくらいで終わろうと思っています。

最後まで付き合ってください、とは言えません。

予定通りではないので、展開は多少急になると思います。

申し訳ありませんが、ご承知いただけますと幸いです。

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