第6話 お披露目

「おにいちゃんっ、お昼に荷物が来たので受け取っておきました!」


 同居2日目の放課後。

 いち早く帰宅すると、来週の編入まで留守番生活のラレアが段ボールを見せ付けてきた。


「クローズドヤマオトコからですっ」

「クロネコヤマトな」


 どんな言い間違えだよ……、と思いながら、俺はその段ボールを受け取る。


 何かを頼んでいた覚えはないんだが……差出人は、あぁ親父か。


「親父がなんか送ってきたっぽい」

「中身はなんでしょうねっ?」

「開けてみないと分からんな」


 このタイミングで送られてきたってことは、多分ラレア関連なんじゃないかと思うが。


「お……制服だ」


 早速開封してみると、段ボールに入っていたのは俺が通う高校の女子制服だった。

 赤いリボンの黒セーラー。

 この制服のデザインが好きで我が校を選ぶ女子も多いと聞く。


「あ、向こうでサイズを測っておいたヤツですっ。シスター校がありましたので、そのツテであっちで制服を作ることになっていましたから!」

「なるほど。じゃあほら、これはラレアが受け取ってくれ」

「試しに着てみてもいいですかっ?」

「そりゃあもうご自由にどうぞ」


 俺としても来週の編入に先駆けて見ておきたい。

 さぞかし似合うんだろうな。


「じゃあちょっと待っててくださいっ」


 そう言ってラレアが自室に駆けていった。

 そして5分後――


「じゃーんっ、見てくださいおにいちゃん!」

「――っ、こ、これは……」


 あ……ありのまま、今起こった事を話すぜ!

 俺は居間で待機していたと思ったらいつの間にか目の前に天使が現れていた……。

 な……何を言ってるのか分からねーと思うが、俺も何をされたのか分からなかった……頭がどうにかなりそうだった……。

 可愛いだとかキュートだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ……。

 もっと尊いものの片鱗を味わったぜ……。


「いかがでしょうっ、おにいちゃん!」


 くるりと回ってポージングを決めたりしているラレア。

 や、やべえなこの存在……。

 銀髪ウルフカット白人美少女の黒セーラー姿。

 ……こんなんもう生物兵器だろ。

 ひとたび戦地に投入すれば、兵士が見とれて世界平和不可避だ。


「むぅ……あまり似合いませんかね?」


 俺が微動だにしないでいるからか、ラレアの表情が曇り始めていた。

 マズい!

 俺は慌てて感想を口にする。


「い、いや似合い過ぎてて目を奪われていたんだよ……可愛いから安心してくれ」

「――本当ですかっ?」

「ああ、お前がナンバーワンだ」

「やったっ。うれしーですっ。ありがとうございますおにいちゃん!」


 ――むぎゅっ。

 ラレアが抱きついてきた。

 テンションが上がるとハグを行う癖でもあるんだろうか。

 今日も相変わらず良い匂いで、俺はクラクラしかけてしまうが……妹だからな。

 ほだされるわけにはいかない……。


「ら、ラレア離れろ……こうやって男にハグするのは本当によくないんだよ。俺以外にもこういうことしたら勘違いされるし、マジで気を付けないとダメだからな……」


 注意しながら優しく引き剥がす。

 するとラレアは、


「言われるまでもありませんっ。男性へのハグはおにいちゃん限定ですからっ」


 と、さも当然であるかのようにそう言われた。

 俺はもちろん(ぐはっ……!)ってなった。


 な、なんという小悪魔……。

 ら、ラレアさんよ……義妹なのに惚れさせようとするムーブは本当にやめてくんないっすかね……?

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