第3話

メラメラ……メラメラ……

「…………」

「…………」


案の定、山火事になった。


………まあいいや。倫理観なんて持っていたら気が持たない。だって私とビーちゃんしかいないような世界だ。私の中では。だから、他の生き物なんてどうでもいい。

………だけど、いなくなられると生存率は下がるし、ちょっと嫌かもしれない。いやいや、もうこの話はやめよう。そして山を降りよう。


私と、ビーちゃんの命さえあればあとのことは、どうだっていいんだ。気にすれば気にするほど、生存率が下がる。この世界は無限に食糧が湧いてくる玉手箱ではない。ただひたすらに殺し合いをするだけの空間。命を奪い合うことによって循環していくだけの空間。それだけ。ただそれだけなんだ。会話もできないような生き物に、同情するなんて…


「………」


同情するなんて、阿呆だよなぁ…………


私たちは山を降りた。炎は消えていない。山の方もだが、私の心の炎もだ。ビーちゃんだって、きっと心は折れてないし炎も消えてない。私のために、生きてくれているんだ。何かを、何かを伝えたいんだ。きっと、そう、信じてる。


「ドテン!」


うっかりしていたら、石に足を引っかけて、転んでしまった。痛いな。痛い。痛い……痛いけどそれってつまりまだ幻覚を見ている訳ではないんだな。もうとっくに死んでるかと思ったが、少しだけ安心してしまった。カロリーは無駄だ。カロリーは無駄だ。だがすごく安心した。よかった。生きてるんだ。私も、ビーちゃんも。それだけで、うっかり涙がこぼれそうになったが、水分と塩分はさすがに失うとまずいのでやめた。


まだそんなことばかり考えている時点で、自分は自分が生きていることを完全に肯定できてないんだな。


弱虫が。


今日は山菜を獲る。いつも通り獲る。

そう思っていたら、とあるものを見つけた。

「壱万円…?」

これは貨幣の一種なのだろう。かつて使われていた。

だが、今この世界には社会なんてものはない。金本位制なんてものは無い。お金が無いなんて、事もない。

そうだ、死んだ爺さんが言っていたな。昔はお金を稼ぐために生きていた、お金があればなんだってできた。今は食糧を得る為に生きている。昔よりは簡単に感じるが、幸福度合いは、昔の方が良かった、なけなしの百円を、賭けに使うことが楽しかった。と。


ただ、今の社会も悪くないと、私の事を擁護したつもりの言葉を言い残し、3日後に襲われて死んだ。

今の社会はどう足掻いても安定が手に入らないし、そもそも社会なんてものはない。のに。

まあ、せめてその爺さんを擁護するとしたら…


資本主義と弱肉強食、両方の社会を比較できたこと、だろうか。

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