第3話 行軍パレード

西暦2030年/帝国暦430年4月15日 ラティーニア帝国東部 バネス市


 神話が過去の事例として高い説得力を持つこの世界において、記念日は特別な重みを持つ。特に建国400年の厚みを持つラティーニアにおいては、自国の存在価値を伝統的な儀式でアピールする事に高い神秘を感じていた。


 そしてこの日、帝国東部の港湾都市バネスでは、400年前の北アドラ海海戦勝利を記念した陸海空行軍パレードが執り行われていた。ラティーニア帝国がアティリカ大陸の小国であった頃に勃発した戦争にて、文字通り歴史的な快挙を成し遂げた戦いであるだけに、官民ともにパレードに多大な熱意を注いでいた。


 異世界との戦争の後、軍事力の早急な近代化が当面の課題となった帝国は、『転移魔法』を用いた交易ルートによって、主に東側諸国に支援を求めた。ロシアや中国、北朝鮮といった国々はこの求めを歓迎し、国際的な視線を気にすることなく大々的な支援を開始したのである。


 そうして20年以上の時が経ち、その結果がこのパレードに現れていた。過去の栄光を象徴するためのパレード専門の騎兵と戦列歩兵、そして地竜騎兵の隊列の後に続くのは、今の帝国軍の主力部隊。東部方面軍隷下の第2自動車化狙撃兵師団の長大な隊列であった。


「しかし、改めて見てみると壮観ですな」


 港を一望できる広場の特設ステージにて、閲兵式も兼ねたパレードの進行役を務める帝国陸軍参謀本部長の言葉に、皇太子のカロス・カザルは小さく頷く。


 30年前までは軍の主力部隊であったのが、地球世界との戦争によって瞬時に時代遅れとなり、今やパレードの見世物程度にまで落ちぶれた戦列歩兵と騎兵部隊。それを見送った後は、第2自動車化狙撃兵師団の精鋭が進み始める。


 帝国陸軍竜騎兵の主戦力である、T-90R主力戦車を先頭に立て、BMP-2歩兵戦闘車とBTR-80装輪装甲車が歩兵達を乗せながら後に続く。ロシア陸軍からの指導を下に編制された機械化歩兵部隊である第2自動車化狙撃兵師団は、3個歩兵連隊と1個戦車連隊を基幹としている。将兵の総数は8000名に達し、その全てが東側ないし国産装備で統一されている。


 続いて上空には、伝統的な航空戦力であるワイバーンとともに、十数機の航空機が舞う。第2航空師団隷下のSu-30〈フランカー〉制空戦闘機が編隊を組んで飛び、陸軍航空隊に属するヘリコプターがその真下を飛ぶ。洋上に目を向ければ、8隻のカラクルト型ミサイルコルベットが隊列を組んで進み、堂々たる陣容を見せつけていた。


「…確かに、我が帝国軍はさらに強くなったと言えよう。だが…」


 カロス皇太子は知っていた。現在東の遊牧民族国家や、南東のベーダ大皇国もまた、潤沢な地下資源と将来性の高い市場を元手に国力を鍛え上げ、軍事力を増している事を。故にアルノシア公国に対しても、露骨に恫喝めいた要求を送っている事を。


「…皇太子殿下の妹君も、ベーダのやり口に対して強い不満を抱いていると聞きます。今や、我らの敵はアルノシアに非ず、と考えていった方がよろしいでしょうな…」


「そう、だな…」

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