24 アイドル?

合宿所にたどり着いた。


荷物を整理し、さっそく練習開始。

学校の文化祭で演奏する曲は、みんなが楽しめるように映画やアニメ、はやりの歌謡曲などの吹奏楽アレンジやメドレーなどが多めに選ばれている。


基礎練やパート練習の後、私たちは広いホールに集まって合奏を行った。

制服ではなく、みなそれぞれの私服での合奏は、なかなかに新鮮である。

いつもの仲間のはずなのに、どこかの市民団体の吹奏楽団みたいに見える。

服装が違うと、こうも印象が違うんだな。


そんなこんなで、あっという間に時は過ぎた。


夕食の後、合宿一番の楽しみの時間がやってきた。

コンクールのお疲れ様会と称して、みんなで遊ぶのだ。


司会は、サックスの村橋くん。


「これから、カラオケ大会を始めま~す!!」


「「イエ~イ!」」


クラスメイトからは、

「琴葉は吹奏楽部だから歌もうまいんでしょ?」

なんて聞かれることがある。

実際、みんなのカラオケを聞いていると、確かに吹奏楽部には歌がうまい人が多いような気がする。

トランペットの鈴木すずきくんは音大を目指しているだけあって、歌声もオペラ歌手みたいに朗々としていて、みんなびっくり!

カラオケ大会はどんどん盛り上がっていった。


「琴葉たちも歌わないの?」


そう聞かれて、私と英美里ちゃんは目配せをする。


「うん。歌うよ。今からちょっと用意するね。村橋くん、曲は○○○○を入れておいて」


そう言って、私たちは大広間から出た。



「よし、いくよ!」


「うん!」


私たちは隣の部屋で急いで着替えた。英美里ちゃんは行くときに着ていた水色のワンピース。私は英美里ちゃんから借りた白いワンピース。頭にはカチューシャをつけた。準備オッケー!


リクエストした曲がかかり、私たちは大広間に入った。


「かわいい~!!」


みんなが褒めてくれた。

私たちはアイドル曲を歌った。それも振り付きで。


「琴葉ちゃん、かわいいよ~!!」


伊織くんたちが叫ぶ。


「英美里ちゃん、最高~!!」


歓声の中、私たちは歌う。

それぞれのソロパートでは、みんながコールをしてくれる。


「エ~ミリ! エ~ミリ!」


「こ~とは! こ~とは!」


懐中電灯を持ってきて、ペンライト代わりに振る子もいる。

撮影に夢中になっている子もいる。


前に野球の応援に行ったとき、相手チームのチアガールがとってもかわいいと思った。

それであの後、私と英美里ちゃんとで、ひそかにダンスの練習をしていたのだ。


私は、ちらりと晴人くんの方を見てみた。喜んでくれているかな?

晴人くんの表情からは、何も読み取れなかった。

私のイメージ、崩れちゃったかな? それだけがちょっと気になった。

けれども、私たちは楽しくアイドル気分を味わった。


歌い終わると男子部員同士で、

「撮った動画、俺にもくれ!!」

なんて言葉が飛び交い、大変なことになっていた。


「アンコール! アンコール!」


え? まさかのアンコール。何も考えてなかった。


「どうする?」


お互いに顔を見合わせる。

ダンスは1曲しか練習してこなかったので、これ以上はもう、持ちネタがない……


「あれ歌うか」


「ん? あれね」


私たちは、アンコールに応えることにした。

私と英美里ちゃんには、お互い好きと言っていたバラード曲があった。これなら二人とも歌える。



「アンコール、ありがとうございま~す!! それでは最後にもう一曲、聞いてください」


「いえ~い!!」


しんみりとした前奏が流れ出すと、

さっきまで興奮していた男子部員たちも、静かになって聞き入っている。


晴人くん、どうかな?


……あれ? いない。いつの間にか晴人くんが大広間からいなくなっていた。

どうしたんだろう?

と、気になりながらも私は歌い続けていた。


すると、晴人くんが楽器を持って戻ってきた。

そして、おもむろに私の歌に合わせて演奏し始めた。



「ひゅ~!! 晴人、かっこいい~!!」


「やるじゃん!!」


「俺も吹こう!」


「私も!」


みんな急いで楽器を持ってきて、大急ぎで組み立て始めた。

楽器の準備ができた子たちから、どんどん私たちの歌に重ねて入ってくれる。

私と英美里ちゃんは目を合わせてにっこり微笑んだ。

なんて素敵な仲間なんだろう!!


こうして、私たちは部員の生バンドに合わせて歌を歌い終えた。

みんなも満足していた。

吹奏楽部っていいな!! 心からしみじみ、そう思った。



バラードを歌ったので、なんとなくしんみりした空気になり、カラオケ大会はこれでお開きになった。

みんなは楽器を片付け、次の肝試しの準備に移った。


英美里ちゃんが言った。


「晴人くん、やるじゃん! 琴葉のために演奏するなんて、めっちゃかっこいいじゃん! 私、晴人くんって大人しいだけかと思っていたけど、意外と行動力あるんだな~って見直しちゃった」


私もそう思った。


「そうだね。晴人くんのおかげで、みんなも楽器を出して参加してくれたし、すっごく楽しい感じになったね!」

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