第11話:REALTYCONの実態

REALTYCON(リアコン)とは、仮想世界の人間が現実世界で、実際にREALTYユーザーと出会うというイベントである

多くの人から非難の声が殺到した

「私は自分の容姿やスタイルに自信がないから、顔出し不要のこのアプリを入れたのに何で!!」

そう言いたくもなるだろう

しかし現実は非情であった


「あ、別に参加しなくてもいいっすよ?来たい人だけ来てくれればいいですから」


そう言ってこの件は終わった

おそらくこれは参加しなければいけないやつだとすぐに悟った


大学生たちがよくやる就職活動中に「企業見学」というもの、実際に働いている社員に対してのインタビューという課題がある

しかしこれに対して企業側は、「自由です」と述べてくるが、この自由ですの大半はそこで振るいをかけるための話術

服装自由の企業説明会にしろ、参加自由にしろ、この「自由」という言葉には裏がある

つまりこれは自由と言えば人は好き勝手やる人間なのかどうかを探るための言わば1次選考、既に試験は始まっている


どっかのハンターになるという漫画では、2次試験会場へ案内しますといきなり歩き出した

最初の課題は私についてくることとされ、多くの受験生は試験官についていき、そこで体力テストが行われていた

つまりその漫画の世界、就職活動の世界で行われてきたことが、今まさにREALTYでは起きている

これは参加しなければ、今後の活動に影響が出ることを意味している


「とりあえず、身バレしないようにするしかない・・・」


そう思い私は次の週の土日に参加することにした


東京新宿にてREALTYCONは開催されていた

「1人参加費用3,000円です!!」

最初に受付の質の悪そうな金髪のサングラス兄ちゃんがカツアゲするかの如く3,000円ぼったくられた

私はこの時点で早くも帰りたい気持ちになった・・・


会場の中にはライバーと思わしき写真がたくさん並んであり、おそらく応募者の皆様だろう

ただ言っちゃ悪いが、あまりにも無名すぎて正直誰が誰か分からん・・・

私はこれ一体何を見に来たんだ?え?となるぐらい、全然分からない人達のアバターを眺めていた


実際にREALTYで使用されるであろう壁紙や、ギフトで言うと全力の指輪や100tなどがプラカードのように置いていた

おそらくこれは現実世界の人がそのギフトを持って記念撮影するためのものだろうけど、正直これはだれが何のための記念なんだろと思った

わざわざ自分のリアアバを晒してまでこんなことするのだろうか?正直意味が分からない世界観に私は今ポツリと1人立っていた


何やらホワイトボードのようなところがあった

そこに自分が来場した証として何かメッセージを書き込めるようなものがあった

色んな書き込みがあった


「〇〇とかいうやつは生活保護で障〇者!!早急に垢BAN求む!運営さんよろしく」

「☆☆ちゃん愛してるうううううううううううう!一生僕は君を推すうううう」

「私は〇〇!!みんな私の枠に来てね!」


みんなどのツラ下げてこんな書き込みをしてるんだろうかと思った

ひぇええ、仮想世界の人間も結局は現実世界の人間だから、まあ普通に考えてこうなるか

しかしまともな書き込みも多いんだけど、こんな暴言をわざわざ書くために来てる人の神経が理解できない

よほどのネットストーカーと私は感じたので、恐ろしいものだと思った


運営と思わしき人物がいた

すると私に何か手を差し伸べてきた


「来てくれてありがとう素敵なお嬢さん、良かったらガムいる?」


なんと私にガムを差し出してきた

私は思わずそれを拒否した

何故か分からないが、私はそれを危険なものと察したからだ


そもそもREALTY症候群なるものを作った元凶の世界に来ているような気がしたからだ

あと昨今の大麻グミとかいうやつの事例からも、あまりそういうお菓子を人から貰いたくなかった

私は適当に見て帰ろうとした

その時だった


「あれ?もしかしてお嬢ちゃん1人?」


後ろから肩をポンッと叩かれた

ビクッとなり、背筋が凍り付いた

冷や汗が出ながらも、私は後ろを振り向いた


私の目の前には40代後半ぐらいのてっぺん禿げ、おでこ広めの禿げたオッサンが立っていた

眉間にしわが寄っており、何故か上半身裸で胸毛が酷く、首に白いタオルをぶら下げていた

そして何故か電子タバコを吸いながら、しかめっ面で私に話しかけてきた

とにかく息が臭すぎて、草も生えないキモイおっさんが目の前にいるのだ

何故このハゲおっさんにナンパされてるのか理解不能なぐらいの状態だ


「あの、彼氏と今日来てます」

「え?彼氏いんの?なあその彼氏って俺とどっちがかっこいい?」

「えっと、彼氏の方が若くてイケメンです」

「いやいやお嬢さんさあwwww俺も若くてイケメンだよね?wwwww」

「え、いや・・・」

「てかさ、ここにいるってことはお嬢さんもREALTYやってんでしょ?なあよかったらLIME交換しない?てかどこ住んでるの?」

「いや、ごめんなさい」

「何さっきから?もしかして俺の事拒否ってるの?そんなで配信者名乗れるの?なあおい!!何か言ったらどうだ」

「ごめんなさい、私はライバーじゃないです」

「嘘言うなやてめえ!!俺みたいな若くてイケメンがてめえのために話しかけてやってんだぞ?お?俺のこの貴重な時間どうすんだ?これは賠償責任問題だぞ!!責任もって俺の為にケーキタワーたてれんのか?あ?どうなんだよおい!!」


私は震えが止まらなかった

こんなキモイおっさんがリスナーもしくはライバーやってるのかと思うとゾッとしてしまった


「あのーすいません」

「あ?なんだてめえ」

「私はREALTY運営のものですけど、お客様。申し訳ございませんが館内ではナンパ禁止となっております」

「ナンパじゃねえよこれは!!お前らの世界でいう枠回りっていうんだろこれは?ポイント回収だろ?ビギナー枠回りだろ?俺はこいつの空間に『入室』してやったんだ!!こいつの入室者0のとこ、俺がわざわざ目のマーク『1』つけてやったんだよ!!感謝されるべきは俺なんだよ!!俺!!分かるあんた?そんなのも分からないでREALTY運営やってんのか?お?何か言えやコラ」


REALTY運営スタッフは不気味な笑みを浮かべていた

ニコニコとしながら近づき、そしてハゲおっさんにこう告げた


「かしこまりました!あなたは善良なるお客様ですので、どうぞVIPルームへご招待いたします。こちらへどうぞ」

「なんだよ分かればいいんだよ!誰がてめえらの飯代のために課金してやってると思ってんだ!丁重にもてなせよ」

「ささ、こちらへどうぞ」


そう言って奥のVIPルームという部屋へと誘導されていった

私は足が竦んでしまった、動悸が激しい

何で誰も助けてくれないの?誰か・・・誰か・・・


崩れかけていたその時、私の肩をそっと両手で支えてくれた男性がいた

目まいがしながらではあったが、リアルイケメンすぎてさらに頭に血が上り私はそのまま意識を失った

しかしハッキリと覚えている


「大丈夫か?REALTY症候群は不安と不満から成り立つ。自分の最高と思える瞬間を思い出して悩みを吹き飛ばすんだ」


気づいたら私はソファの上にいた

REALTYCONはまもなく終わろうとしていた

誰だったんだろう?あのリアルイケメンは・・・?

とりあえず私はそのまま帰宅した


最悪だった・・・3,000円の参加費を払ったのにこんな目に合うし・・・

しかもよく分からないアバターや名前の人たちの作品を見に行った

例えるならば『知らない学校の展示会を見ている感覚』だった

やはり私のような陰キャには、現実世界は厳しすぎたのかもしれない

もう二度と行かない・・・でも、あのリアルイケメンは結局何者だったんだろう

会ってお礼を言いたい、そんな思いでお風呂の中で水面下でプクプクと泡を弾かせた


その頃REALTYCONが閉会した後のことだった

VIPルームに案内されたハゲおっさんは横に倒れており、既に息絶えていた

プルルル、と携帯電話の音が鳴り響いた


「あ、もしもし。こちらREALTY運営スタッフのまぐろで~す。はまちさんもしくは、とろさーもんさんいますか?ええ、ええ。本日迷惑行為を行っていた40代後半のハゲおっさんをREALTY症候群に追いやって死に至らしめましたというわけで、報酬の1割、約束の口座に入金よろしくって伝えといてね。じゃあね」


何やら不穏な動きが、香奈梨の知らない裏側で行われていた

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