第四十三話 2年後のリック

 リック視点


 フェリスさんと一緒に暮らし始めてから、もう2年の月日が流れ、俺は14歳になっていた。

 成長期ということもあってか、その間に身長は10センチも伸び、お陰で魔力回路はほぼ完全体となった。お陰で、上級以上の魔法を行使しても、問題は無い。

 さあ、そろそろフェリスさんに勝とうではないか。

 俺はそう意気込むと、杖を構える。

 そして、対するフェリスさんは弓を構えた。

 今、俺たちがいるのは家から少し離れた場所の森林。周囲一帯は幾度となく戦った際の余波で、まるで円形を描くかのように木がごっそりと抉り取られている。ここなら、何も気にせず、思う存分戦えるのだ。


「ふぅ……はっ」


 俺は杖を構えると、魔力を練る。

 直後、中級風属性魔法、風圧エアプレスを完全無詠唱で同時に3つ発動させて、多方向からフェリスさんを風圧で押しつぶさんとする。

 だが、フェリスさんも即座に風圧壁ウインドウォールを完全無詠唱で同時に2つ発動させて、風圧エアプレスを上手く受け流す。

 あ~……やっぱ上手いわ。ただ受け流すんじゃなくて、限りなく自身の消耗が少なくなるように気を使っている。その辺は、まだまだ敵いそうにないな。

 そんなことを呑気に考えながらも、俺はその僅かな隙に詠唱をする。


「魔力よ。我を守れ。風圧鎧ウインドプレート!」


 直後、俺の体が風圧の鎧に包まれる。

 短縮詠唱で発動したこの魔法は上級風属性魔法、風圧鎧ウインドプレートで、分かりやすく言えば常時、風圧壁ウインドウォールで自身を守っているような状態になったと言う訳だ。魔力はそこそこ使うが、ここ2年本気で魔法を使いまくって、元々多かった魔力容量が更に増大した今の俺なら特に問題はない。


「魔力よ。全てを貫け。風槍ウインドランス!」


 すると、フェリスさんが短縮詠唱により発動させた風槍ウインドランス10本がそれぞれ別々の軌道で俺に襲い掛かる。

 流石にあれら全てを風圧鎧ウインドプレートのみで防ぐと、それにかかる負担が凄いことになるから、分散させないと。

 そう思った俺は、即座に完全無詠唱で風槍ウインドランスを10本撃って、迎撃する。だが、威力の劣る完全無詠唱では迎撃しきることなんて出来ず、普通に突破されてしまう。しかし、それにより威力が弱まった風槍ウインドランスなら、簡単に風圧鎧ウインドプレートで受けられる。


 パスッ パスッ パスッ


 予想通り、風槍ウインドランス風圧鎧ウインドプレートに当たった途端、次々と消滅していく。


 ヒュン ヒュン


「……!? おうっ」


 直後、前方から飛んできた矢を、俺は屈んで回避する。今の、しれっと風が纏っていたから、まともに当たったら風圧鎧ウインドプレートを突破されてただろうな……


「で……あ、まずっ」


 フェリスさんの方に視線を向けた俺は、即座に風圧鎧ウインドプレートを解除すると、短縮詠唱で風壁エアウォールと、とある魔法を唱え――身構える。

 さて、俺の聞き間違いじゃなければ、今フェリスさんが詠唱している魔法は……


「……風絶爆散・収縮ウインドエクスプロージョン!」


 直後、超圧縮された空気の塊が俺めがけて勢いよく放たれる。

 そして、その圧縮された空気が一気に――解放された。


 ドオオオオオンンン!!!


 耳をつんざくような音が響き渡るのと同時に、突風と衝撃波が俺を襲った。

 そして、それを受けた俺は……


 ふっ


 まるで蝋燭の火が消えるかのように掻き消えた。


「な!? ……い、いつの間に!?」


 フェリスさんは驚きを露わにしながら、フェリスさんの右方20メートルの所に立つ俺を見る。

 お、これは初めて見せたから、流石に驚くか。


「まあ、唱えている最中に陽炎ファントムを使って、そっと移動しただけだ」


 俺はしれっと魔法発動の準備をしつつ、その時間稼ぎに種明かしをする。

 陽炎ファントムとは、見かけ上の自身の位置をずらす中級火属性魔法で、使えば先ほどのように相手を混乱させることが出来る。

 だが、陽炎ファントムによって作り出された見かけ上の姿は少しぼやけて見えるから、普通に使うだけでは意味がない。そこで、俺は使う前に風壁エアウォールで自身の姿を軽く隠して見えにくくすることで、その弱点をカバーしたという訳だ。

 いや~我ながらナイス作戦!

 じゃ、続きをやるか。


「魔力よ。獄炎球ヘルフレアボール!」


 あらかじめ魔力を練ることで、極限まで詠唱を減らして放たれた上級火属性魔法、獄炎球ヘルフレアボールをフェリスさんめがけて撃つ。だが、フェリスさんも俺と同じようにしれっと魔力を練っていたみたいで、即座に風圧壁ウインドウォールを四重で展開して、しっかりと防ぐ。


「魔力よ。地獄の業火で焼き尽くせ――」


 俺はフェリスさんが獄炎球ヘルフレアボールに対処している隙に完全無詠唱の風強化エア・ブーストで身体能力を上げると、短縮詠唱で俺の切り札ともいえる魔法の詠唱を唱える――


「それはっ!? 魔力よ。我を守れ。風圧壁ウインドウォール!」


 フェリスさんは即座に短縮詠唱の風圧壁ウインドウォールを三重で展開する。


獄炎地獄インフェルノ!」


 そして、それと同時に最上級火属性魔法、獄炎地獄インフェルノを発動させ、超高温で燃え盛る炎の球体をフェリスさん……の目の前の地面めがけて放った。

 多分フェリスさんが展開した魔法でも十分防げるし、最悪当たっても身代わりの魔道具があるらしいから問題ないかもだが、流石にこれをフェリスさんにマジで当てにいくのは気が引ける。

 フェリスさんだって、さっき最上級風属性魔法、風絶爆散・収縮ウインドエクスプロージョンを俺に直撃させないように気を付けてくれてたし。


「じゃ、よっと」


 獄炎地獄インフェルノを放った俺は即座に上へ跳ぶと、更に風踏エアアクセルで空中を踏み、正面へ跳ぶことでフェリスさんの背後に素早く下り立つと、ポンとフェリスさんの肩に手を乗せる。


「これで俺の勝ちです」


「……そうね」


 俺の勝利宣言に、フェリスさんは少しの間沈黙した後、悔しそうにそう呟いた。

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